久井 信也
ソリューションサービス研究所

プロジェクトでは,必ずと言えるほど何らかの問題が発生します。要因はさまざまですが,根底にはコミュニケーションの欠如があります。プロジェクト・マネジャーがいくら指示や命令の伝達を徹底しても,メンバーが動かなければ仕事は進みません。プロジェクトの成功には,メンバーの「心」を動かすことが必要です。プロジェクト・マネジメント力とコミュニケーション力はそのためにあることを忘れないでおいてください。

ドキュメンテーションのプロセス

 プロジェクト・マネジメントで必要な五つのコミュニケーション力のうち,「ヒアリング/インタビュー」「ディスカッション」「ネゴシエーション」の三つを前回まで解説してきました。今回は残り二つの「ドキュメンテーション」と「プレゼンテーション」の要点を解説します。

 さらに全体のまとめとして,プロジェクトの成功に向けたコミュニケーション力強化の秘訣を解説します。

<事例>人を動かせない連絡文書

 Hさんは電子機器の開発技術者で,新製品開発のプロジェクト・リーダーでした。一部の電子部品の性能が,現状のレベルでは要求仕様に十分ではないことが分かり,電子部品製造部門の開発担当者Iさんと何度も改良について検討を重ねてきました。しかし,納期は迫っているのに見通しが立ちません。焦りを感じていたHさんは,問題の重要性を明確にするためにIさんの上司あての連絡文書を作成しました。

 連絡文書は,部品改良の取り組みが一向に進んでいないことへの非難と,早急に取り組むようにという強い要求に終始していました。Hさんは連絡文書に自分の思いを込めたことで溜飲が下がり,ほっとしていました。ところが,その連絡文書はHさんの上司であるプロジェクト・マネジャーのところで承認を得られず,突き返されたのです。

 Hさんは気持ちを込めて書いた文書のどこが悪いのだと憤まんやるかたない気持ちで,「なぜ,承認してもらえないのですか」と質問しました。すると「Hさん,あなたはこの連絡文書で何を伝えたいのかね」とプロジェクト・マネジャーに問い返され,「これはあなたの感情を文書にしているだけではないかな。これがたとえ事実であったとしても,相手は感情を害して,素直な気持ちで協力する気にはならないよ。あなたの評判にもかかわることだから,このままではとても承認できない。書き直してくれるかな」と言われたのです。

『日経エレクトロニクス』2009年9月21日号より一部掲載


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