リコーは「GR DIGITAL」の後継機種で,デザインを変えないという大胆な決断をした。この決断は,同社独自のブランド・イメージの獲得に大きく貢献する。さらに,普及価格帯でも好評を博す機種が生まれるようになった。

 2005年10月21日,リコーは高級コンパクト機「GR DIGITAL」を発売した。販売台数は,同社の予想を大きく超えた。リコーの願い通り,プロやハイ・アマチュアが「武骨で小さな本体から,切れのいい(解像感の高い)写真を出力する」とGR DIGITALを評価したからだ。

 しかも,その売れ行きは2年もの間ほぼ鈍らなかった。プロやハイ・アマチュアの高い評価が,銀塩カメラの「GR」になじみがなかった人々に伝わったためである。リコーが運営する「GR BLOG」が話題を集めたことや,糸井重里などの著名人がユーザーになったことも大きく貢献した。

スペシャリティー・カーの限界

 その一方で,酷評もあった。例えば海外の有力レビュー・サイトである英dpreview.com社は,「Above Average」と評した。実質的に「買わない方がいい」という意味である。GR DIGITALは競合する可能性がある機種と比べて2倍近く高価なのに,劣る機能があったからだ。中でも問題視されたのが,画像のノイズ低減機能が貧弱なことだった。

 そうした欠点は,GR DIGITALの成り立ちから避けられないものだった。GR DIGITALは,クルマでいえば大衆車をベースにした「スペシャリティー・カー」である。レンズや外観などを変えても,性能の限界はベース機種によって制約される。だからといってすべてを専用設計する「スポーツ・カー」にすれば,開発期間やコストがケタ違いになる。それを一眼レフのサブ機として売る価格に収める体力は,リコーのカメラ部門にない。

 欠点の解消には,普及価格帯のベース機種にも用いる部品の改善が不可欠である。そこでリコーは,「GR DIGITAL ?」(2007年11月発売)では,普及価格帯の機種と共通に用いる前提で,画像処理LSIを新たに用意した。このLSIに新開発のノイズ低減ソフトウエアを組み合わせて,ノイズ低減性能を引き上げた。

『日経エレクトロニクス』2009年9月7日号より一部掲載

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