雑誌 特集

ARが家電を飲み込む

野澤 哲生=日経エレクトロニクス
2009/09/03 16:00
 

第1部<第1部:インパクト編>
現実を仮想情報で強化
家電のハードウエアが“消える”

「拡張現実感(AR)」という技術が,近い将来,街中や家庭で使われ始める。コンピュータ技術の飛躍的発展により,SFのような世界が現実になろうとしている。携帯電話機やデジタル家電もこの嵐にいやがおうにも巻き込まれ,変化を迫られることになる。

ARが人間の感覚を強化または補完

 まるでSFのような世界が近い将来,現実になろうとしている。鍵になるのは,「拡張現実感(AR:augmented reality)」技術だ。ARは1990年代前半に生まれた技術で,既に映画やテレビではよく使われている。例えば,スタジオにいる解説者が,あたかも大自然の中にいるかのように背景の映像を合成する。テレビ以外では,暗視スコープや戦闘機のパイロット向けの標的表示など軍事技術として発達し,医療分野でも2年ほど前に実用化されている。

 そして近い将来,ARは我々の日常生活にも深く入り込んでくる。これは,画像処理関連のアルゴリズムが洗練され,必要とする演算量が減ってきた一方で,マイクロプロセサやグラフィックス処理LSI(GPU)の性能が飛躍的に高まってきたことが大きい。「ARToolkit」と呼ぶ,AR向けC言語ライブラリを無償で公開したことなどで知られる,奈良先端科学技術大学(NAIST)教授の加藤博一氏は「今はiPhoneでさえ,1990年代のワークステーション並みの演算能力を持つ」と指摘する。

 ARの民生品としての実用化は,早ければ2009年中にも一部の携帯電話機や印刷物で始まる見通しだ。そして数年のうちに家電製品にも広がり,「大きな変化」をもたらす。

 その変化とは,簡単に言えば我々が既成概念としてとらえている家電製品の姿を変えてしまうことである。

「役に立つ」仮想現実感がAR

 では,ARとは一体何か。人間が実際に見たり,聞いたり,触ったりする情報に,コンピュータで加工処理した情報をリアルタイムに重ねて,人間の感覚を拡張または強化したり,作業を支援したりする技術である。

 このARと,1990年前後に注目を集めた仮想現実感(VR:virtual reality)との基本的な違いは,現実の情報と仮想の情報の混合比率にある。VRが実際の情報,例えば視覚をすべてコンピュータ・グラフィクス(CG)など仮想情報で置き換えようとしているのに対し,ARは現実の情報を前提に,仮想情報を付加する。仮想情報の割合が小さいのである。

『日経エレクトロニクス』2009年9月7日号より一部掲載

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第2部<対策>
位置合わせの精度を競う
マーカーレスに進展あり

AR技術の応用展開は多岐にわたる。中でも視覚的なARに関連したサービスは今後,多数登場する可能性がある。ただし,普及に向けては位置合わせ技術の精度向上という大きな壁を越える必要がある。

映像の位置合わせ技術に課題は多い

 視覚的なARは,視界中の特定の映像に,それに関連する情報を重畳して表示する技術である。例えば,街中で見掛けるビルや店頭の製品,新聞や雑誌といった印刷物など,あらゆるものから会社名や商品の追加説明,プロモーション映像などが飛び出すようなサービスを構築できる。ARの中でも,視覚に関するサービスは最も多く登場しそうだ。

 こうしたサービスの普及の鍵となるのが,「位置合わせ」技術である。ARでは実際の視界の映像に,テキストや映像などの関連情報を重畳するが,いかに情報を正確な位置に重畳できるかがポイントになる。その正確さが失われると,商用サービスとして使い物にならないケースも出てくるからだ。

マーカーとマーカーレス

 現在,この位置合わせの技術は,「マーカー」と「マーカーレス」という2種類に大別できる。マーカーは目印のことで,あらかじめ印刷物などにそれを張り付けておき,カメラで読み取って対応した情報を映像に付加する。一方,マーカーレスは目印を使わない手法で,携帯端末が取得した位置情報や視界の中の映像を直接判別し,それを基に関連した情報を取得して映像に付加する。

『日経エレクトロニクス』2009年9月7日号より一部掲載

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第3部<HMD編>
小型・軽量化が進展
画角やコストに課題残る

ARインタフェースの本命は,メガネ型ディスプレイのHMDだ。ARの世界を最も自然な形で体感できる。ただし,HMDの開発はまだ道半ば。普及に向けて解決すべき課題は多い。

HMDでのARが生活を変える

 ARの今後の発展に,HMD型のARインタフェースの進化は不可欠である。一般の眼鏡並みに小型・軽量で洗練されたデザインを持つ理想に近いHMDが開発されれば,ARに対する我々の体験自身を大きく変えていくことになるからだ。

 HMDでは,まず,携帯電話機型のARインタフェースで必要だった,端末を何かにかざす,という行為が不要になる。かざす行為については,携帯電話機向け ARソフトウエアを開発中のNTTドコモ自身が,「社会的に受け入れられるか,まだ分からない」と考えている。HMDを使えばこのような特殊な行為をしなくても,視覚の拡張を自然に実現できる。

 ただし,理想のHMD実現へのハードルは高い。ディスプレイ機能,カメラや各種センサ,電池,そして高速無線通信の機能を搭載していることを求められるからである。

一般の眼鏡に近づく

 では現在,HMDの開発はどこまで進んでいるのだろうか。結論を言えば,2000年代前半までのHMDとは全く別物になっている。

『日経エレクトロニクス』2009年9月7日号より一部掲載

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