「実践モジュラーデザイン」は,部品の種類に対して相対的に製品の多様化を図り,収益を改善するための「モジュラーデザイン(MD)」について,科学的・体系的に解説するものです。

 前回まではMDに取り組むに当たっての事前準備活動を説明してきた。今回からが,本格的なモジュール化活動である。初めに,不要な製品によって不要な部品が生まれることがないように,不要な製品を整理して,あるべき製品体系を設定し,「製品ミックス」として確立する。

 製品ミックスとは,製品ラインと製品アイテムの組み合わせをいう。製品ラインとは,製品の大まかな種類のことであり,製品ラインアップともいう。製品アイテムとは,ラインアップされた製品の派生製品である。

製品革新あっての製品ミックス

 現在の技術レベルのままで製品ミックスを確立してもすぐに陳腐化して使えなくなるので,初めに製品革新を図っておく。製品革新は,VE,TRIZ(発明的問題解決法),商品企画七つ道具,経験価値マーケティングなどの手法を駆使して行う。

 本コラム第1回(2009年4月号)の表1で,日本企業でアジアの電機メーカーA社に唯一勝っていたダイキン工業の家庭用エアコンを紹介した。同社は(1)季節製品の弱点であるリードタイムを業界最短の3日にした(製造・物流革新)(2)量産効果を得るための設計に変えて世界で共通の小型エアコンを販売した(設計思想革新,モジュール化)(3)他社とは全く異なる機能を追求し,埋没しない製品で存在感を高めた(製品革新)──という総合的な生産革新を行うことによって,事業撤退危機レベルから世界一流のレベルにのし上がった。(3)があってこその(1)であり,(2)である。

〔以下,日経ものづくり2009年9月号に掲載〕

日野三十四(ひの・さとし)
モノづくり経営研究所イマジン 所長,日本IBM 顧問
1968年に自動車メーカーに入社。1980年にトヨタ自動車のベンチマーキング開始。1988年にトヨタの部品共通化能力を超える手法を目指し,MDの研究を開始。2000年に経営コンサルタントとして独立。2002年に『トヨタ経営システムの研究』(ダイヤモンド社)を出版(韓,台,米,タイ,中で翻訳出版)。2003年に日本ナレッジ・マネジメント学会から研究賞受賞。2003年から日韓の重工業や電機メーカーなどでMDをコンサルティング。2007年に“製造業のノーベル賞”といわれる米Shingo Prizeから研究賞受賞。2008年から日本IBM顧問。