「だから,部下が動く トヨタ流 人づくり」では,今,多くの日本メーカーの管理者が頭を悩ませている社員の人材育成に関して,トヨタ自動車流の考え方や方法を伝授します。社員にやる気とモチベーションを与え,自ら動く組織をつくるための直接的,間接的なヒントが満載です。本コラムは中部産業連盟が開催するセミナー「トヨタ流モノづくりと人づくりの心・伝承塾」の内容を編集部が取材し編集したものです。

 景気には浮き沈みがあります。企業の業績も常に右肩上がりというわけにはいかず,現実には調子が良いときも悪いときもあります。調子の良いときはもちろん,悪いときにはなおさら,職場を導くリーダーには役割をしっかりと果たすことが期待されます。現在のような大型の不況下でも,リーダーの手腕次第で競合他社よりも早く職場を回復軌道に戻し,不況から脱することが可能となります。

 最近,第一線で働く社員はもとより,職場のリーダーを任されている管理者からも,「米国のサブプライムローン問題を端緒とした今回の世界同時不況は,どうにもならない」といった,あきらめの言葉がしばしば聞こえてきます。そう言いたい気持ちは分かります。確かに,世界最大の市場であり,あれほど旺盛な消費行動を見せていた米国市場に急激なブレーキがかかりました。頼みの新興国市場も,米国と歩調を合わせるかのように減速しました。好調なときには「品薄は困る」と言われ,増産したり,サービス体制を整えたりして必死で対応した。それなのに,急に「在庫が残って困る」と言われるのですから,もうお手上げだと思いたくもなるでしょう。

 しかし,そんなことを愚痴っていても始まりません。こうした市場環境は,どの会社にも平等に与えられたものなのです。どんなに大型でも,明けない不況はありません。リーダーは職場運営をうまく行うためのコツを身に付け,不況からいち早く脱するようにメンバーを導かなければならないのです。そのために,もう一度,基本的なことから見直してみましょう。

〔以下,日経ものづくり2009年9月号に掲載〕

肌附安明(はだつき・やすあき)
HY人財育成研究所 所長
トヨタ自動車にて約30年間にわたり,多くの新車開発プロジェクトで設計や生産設備の立ち上げ業務をこなしてきた技術者。その後,同社TQM推進部の課長として役員への企画提案や,社員の人材育成,協力会社の育成指導を約10年間行った。2008年9月に同社を定年退社,HY人財育成研究所を立ち上げ,所長に就任。トヨタ流の業務の進め方や人材育成について講演・執筆活動を精力的に展開している。主な講演に,本誌および中部産業連盟で開催する「トヨタ流モノづくりと人づくりの心・伝承塾」などがある。