シボとは,樹脂部品の表面に付ける皮のような模様や,梨地のような質感のこと。金型の製品部表面を薬品(酸)で処理して実現するのが通常で,あとは成形さえすれば,仕上げ工程なしで美しい製品を得られるのがメリットだ。一方,金型へのシボ加工は高度な熟練を必要とし,危険な作業でもある。これを,デジタル技術で支援しようというアイデアが,最近になって急に現実味を帯びてきた。

 金型の中心,成形品の反転形状が彫り込まれた部分が,あおむけに置かれている。それを熟練技術者がのぞき込み,表面にフィルムを当て,曲面に合わせて切り込みを入れながら,丁寧に張り付けていく。シボの加工を手掛ける工場の光景だ。

 張ったフィルムに描いてあるパターンに応じた凹凸が,エッチングによって金型表面に刻まれる。さらに,金型から成形品の表面に転写され,シボ付きの製品になる。この過程を,CAD/CAMのようなデジタル技術と切削加工で何とか処理できないか,というアイデアがある。

 シボの形状は,成形品全体の形状よりはるかに微細なため,デジタル技術で加工するのは非現実的だと思われていた。しかし数年前に,細かい凹凸形状データを作成できる3次元ソフトが利用可能になり,「外堀」が埋まっていた。「内堀」を埋めたのが,2009年6月に牧野フライス製作所が発表した「STLCAM」。今までになく大量の3次元データを大量に処理でき,非常に細かい凹凸形状を切削加工するカッタパスを生成できる。このため,小径の工具で金型にシボ形状を直接彫り込むことが現実的になった(図)。

 既存のシボを直ちに全部置き換えることは考えにくいが,デジタル技術を用いれば,金型をシボ加工会社との間で輸送する必要がないため,シボ加工全体の所要時間が短くなる。薬品を使わないため環境負荷が減る,という利点もある。それ以上に,デザイナーが自らシボのテクスチャをコンピュータでデザインし,その通りに製品を加飾できるようになる,という意味が大きい。

〔以下,日経ものづくり2009年9月号に掲載〕

図●シボの工程と,デジタル技術の応用
平面上の絵柄としてテクスチャデータを作成することは,これまでもシボ加工会社で実行していた。2000年を過ぎたころ,試作品に直接張り付ける凹凸フィルムをテクスチャデータから作成する技術が実用化された(図中の「バナトーン」のところ)。ごく最近,3次元ツールで立体としてシボのテクスチャデータを作成できるようになり,さらにCAM経由で金型を切削加工したり,あるいはラピッド・プロトタイピング(RP)装置で金型を造形したりすることも可能になった。図中で【 】内はソフトウエアツールまたはRPシステムの名称。
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