社会インフラで稼いで電子デバイスの復活を待つ

 「私に課せられた最大の使命は,大幅な赤字に陥った苦境から一瞬でも早く抜け出し,利益ある持続的成長に向けて再発進させること」。

 2009年8月5日,東芝は経営方針説明会を開催し,同年6月に代表執行役社長に就任した佐々木則夫氏が登壇した。佐々木氏は,原子力発電事業に長年従事し,米Westinghouse社の買収では中心的な役割を果たした人物。佐々木氏が率いてきた原子力発電事業を中核とする「社会インフラ」部門は,今や東芝にとって押しも押されもしない稼ぎ頭である。デジタル民生機器事業や電子デバイス事業,家庭用電器事業などが営業赤字に沈んだ2008年度にも,社会インフラ部門は1132億円の営業黒字を確保している。社会インフラ部門は,2009年度も東芝全社の営業利益の大半をたたき出す見込みだ。

半導体投資は60%減

 佐々木氏は,東芝をどのような方向に導いていくのか。同氏が今回打ち出した経営方針を見ると,前社長の西田厚聰氏とは実に対照的な点が浮かび上がる。西田氏は,東芝の基幹事業を「半導体と原子力」と明確に定め,この2事業,とりわけ半導体に重点的な投資を敢行してきた。その半導体偏重ぶりは,2006~2008年度の3カ年合計の,東芝の設備投資額である1兆6435億円のうち9870億円を半導体事業に投じたことに,如実に表れている。

 佐々木氏は,設備投資面では,半導体偏重の体制を大きく見直す。2009年度の半導体事業向けの設備投資額は約900億円。同社は2006年度に 3550億円,2007年度に4110億円,2008年度に2210億円を半導体事業に設備投資してきたが,それを大幅に減額するわけだ。方針転換を受け,東芝のある半導体技術者は「従来のやり方を見直す。これまでは先端の装置を惜しみなく使えたが,今後は,資金を使わずに低コスト化する方法を考える必要がある」と語る。

『日経エレクトロニクス』2009年8月24日号より一部掲載

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