移動体通信網のトラフィック激増は,もはや逃れようがない課題だ。事業者はそれに立ち向かうべく,移動体通信方式のさらなる進化に取り組み始めた。今後5年ほどの間に,最大100Mビット/秒級のサービスが続々と登場しそうだ。その一方で,移動体通信網だけではトラフィックを収容しきれないという見方も多い。新たな移動体通信方式の導入と並行して無線LANなど,異なる無線技術を混在させたネットワークの構築が進む。

通信トラフィックの激増に立ち向かう

 「本格的なモバイル・ブロードバンド時代の幕が開いた」(UQコミュニケーションズ 代表取締役社長の田中孝司氏)。

 2009年は,実効10Mビット/秒級の移動体通信サービスが続々と登場する年となった。KDDI系のUQコミュニケーションズが下り最大40Mビット /秒のモバイルWiMAXサービスを7月に開始したのを皮切りに,同月にイー・モバイルが下り最大21Mビット/秒のHSPA+(HSPA Evolution)を導入。10月にはウィルコムが上下とも最大20Mビット/秒のXGPのサービスを始める。

 これらの新サービスの登場を契機に,移動体通信のブロードバンド化が本格化する。事業者は「ビット当たりの運用コストを下げなければ,データ通信料定額制の時代に対応できない」(KDDI 代表取締役社長兼会長の小野寺正氏)とみて,通信容量を増やす新方式を導入する計画を打ち出した。5年後の2014年には,最大100Mビット/秒級の移動体通信サービスが花盛りとなる。

 ただし,通信方式の進化だけでは,今後のトラフィックの激増には追い付かない。大容量コンテンツの増加やデータ通信料の定額制への移行などにより,国内の移動体通信トラフィックは2017年に2007年比で約200倍になるとされる。事業者は移動体通信網の通信容量不足を補うために,家庭用小型基地局である「フェムトセル」や無線LANを組み合わせることを考え始めた。移動体通信技術は,「3G」や「3.9G」といった世代だけでは表現できない進化をたどることになる。

『日経エレクトロニクス』2009年8月24日号より一部掲載

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