1Gビット/秒を超える高速無線通信を実現できるとして,期待を集めるミリ波通信。国際的に無免許で,7GHz幅もの広帯域を利用できる点が最大のウリだ。デジタル家電からパソコン,携帯機器メーカーまでもが採用を画策する。普及への課題は,部材コストの低減。機器メーカーや半導体メーカーが主導する,大幅なコスト低減に向けた取り組みが始まった。

ミリ波通信への期待高まる

 「ミリ波は,数年後には間違いなく必要になる。だからこそ,力を入れている」(米Intel Corp.,Principal EngineerのAlexander Maltsev氏)。

 60GHz帯のミリ波通信を,パソコンやデジタル家電機器で利用するための取り組みが活発化している。機器間を数Gビット/秒で接続する超高速無線インタフェースを,ミリ波帯の電波を使って実現する狙いである。多数のメーカーが手掛けることで,ミリ波通信の位置付けは今後数年で大きく変わりそうだ。課題だった部材コスト面も,出荷量の上昇を追い風に,今後大幅に低減するシナリオが見えてきた。

IntelやBroadcomが推進

 例えばIntel社や米Microsoft Corp.,フィンランドNokia Corp.,米Dell,Inc.,パナソニックなど15社は,各種のデジタル家電機器に向けたミリ波通信仕様の策定団体「WiGig(Wireless Gigabit Alliance)」を2009年5月に設立した。2009年第4四半期までに仕様を作り,早ければ2010年にも相互接続性テストを始める。

 さらに,Intel社や米Broadcom Corp.,米Atheros Communications,Inc.など無線LAN用ICの大手メーカーらは,米IEEE802委員会において,ミリ波を使う無線LAN方式の標準化作業部会「TGad(Task Group ad)」を2009年初頭から立ち上げた。「ミリ波通信は,現行の無線LANの11nを相互補完する技術として有用だ。家庭やオフィスなど,さまざまな場所で利用されることになるだろう」(11ad作業部会の議長で,Intel社 Principal Engineer のEldad Perahia氏)。

傍流からメインストリームに

 ミリ波通信をデジタル家電機器の近距離無線インタフェースで活用するという取り組みは,これまでにもあった。既にパナソニックやソニー,韓国 Samsung Electronics Co.,Ltd.など大手AV機器メーカーが推進する「WirelessHD」規格が標準化されており,対応機器も販売されている。またIEEE標準に関しては,ミリ波活用の仕様としてIEEE802.15.3cがある。

 これら既存の業界活動に対して,最近の動きの特徴は,主導する企業がIntel社やBroadcom社,Atheros社など,パソコンや無線LAN業界の大手であるということだ。ミリ波通信は2.4GHz帯などに比較して直進性が高いことから,「使い勝手の悪い無線」というイメージが強く,無線通信の規格化においては“傍流”という位置付けだった。それが現状では,無線LANのメインストリームである「11n」の後継規格としての位置付けで議論されているほか,大手の無線LAN用ICメーカーが軒並み関心を示すなど,流れは大きく変わりつつある。

『日経エレクトロニクス』2009年8月24日号より一部掲載

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