液晶パネルやタッチ・パネルをはじめ,電子ペーパー,太陽電池に至るまで,透明電極材料として幅広く利用されているITO。このITOを置き換える新しい透明電極材料が,徐々に実用化されつつある。折り曲げに対応しやすい,コスト低減に向く,透過率が高いといった特徴を備えているからだ。既にタッチ・パネルで採用が始まっており,電子ペーパーがこれに続く。そして,遠くない将来に太陽電池や液晶パネルに用途が拡大する可能性がある。

新たな透明電極材料を機器の付加価値向上や低コスト化の切り札に
(写真:大日本印刷)

 液晶パネルやPDPパネルをはじめ,タッチ・パネル電子ペーパー,太陽電池や有機ELパネルなど,さまざまな電子デバイスの透明電極材料としてITOは広く利用されてきた。ここにきて,一部の用途で,従来のITOに代わる透明電極材料を導入する動きが始まった。

 例えば,ブリヂストンは,透明電極材料としてITOの代わりに導電性高分子を採用した電子ペーパーを試作し,2009年6月に発表した。「薄くて軽く,曲げても割れない電子ペーパーを,印刷技術を使って極めて低コストで製造したい。ところが,現行のITOを採用すると,曲げ過ぎた場合に割れる恐れがある」(ブリヂストン)という。しかも,現行ITOは印刷技術で製造できない。そこで同社は,印刷技術で成膜できる,折り曲げ可能な新しい透明電極材料をいろいろと試している。「現在は特性面で不十分だが,2年後には特性が実用域に達すると期待している。なるべく早く,製品に適用したい」(ブリヂストン)と意気込む。

タッチ・パネルに続々搭載

 公式発表こそまだないものの,既に製品レベルで透明電極に新材料を採用し始めた用途もある。タッチ・パネルである。材料メーカーのTDKによれば,塗布法で成膜するITO(以下,塗布型ITO)を使った同社のITOフィルム「フレクリア」は,「既に一部のタッチ・パネル製品に採用済み」(同社)という。

 実際,タッチ・パネルでは今後,急速にITOの置き換えが進みそうだ。タッチ・パネル・メーカー大手の日本写真印刷は,投影型静電容量方式のタッチ・パネルの透明電極材料として,溶液に微小なAgワイヤを混ぜた透明導電性インク(Agワイヤ・インク)を採用する方針である。具体的な製品適用時期は明らかにしていないものの,同社はこのために米国のベンチャー企業であるCambrios Technologies社と,Agワイヤ・インクの共同開発に乗り出している。

『日経エレクトロニクス』2009年8月10日号より一部掲載

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