雑誌 特集

HTML 5

スマートフォン,ケータイ,家電をつなぐ

北郷 達郎=日経エレクトロニクス
2009/08/06 16:00
 

開発者イベントの
隠れたメッセージ

 「合言葉はHTML 5」─。2009年5月末から6月初旬にかけて,米国で開催された米Google Inc.の開発者向けイベント「Google I/O」と米Apple Inc.の「WWDC09」。ちょうど間に挟まれる形になった米Palm Inc.の新スマートフォン「Palm Pre」の発売。三つのイベントには,共通のメッセージがあった。

 Google I/Oは,初日の基調講演からHTML 5のオンパレードで,Google社が今後の技術的な標準をHTML 5に置いたことを明確に打ち出していた。翌日は,共同作業のための新サービス「Google Wave」一色に染めた。Google Waveはいわば,電子メールとチャットと文書エディターを一つにまとめたようなソフトウエアだ。ある「テーマ」についてコミュニケーションしたり,複数のユーザーが共同で作業したりできる。

 Google Waveの実装には今後,HTML 5が不可欠な要素の一つになる。Google Waveは,ドラッグ・アンド・ドロップ操作やローカル・データベースなどの機能を必要とする。Google社は現在,Webブラウザーにこうした機能を付け加える「Google Gears」を開発・配布しているが,今後はHTML 5と統合していく方針を示した。HTML 5でこれらを実現しているからだ。

 Apple社のWWDC09の目玉は,iPhoneの最新機種である「iPhone 3GS」であった。そのOSである「iPhone OS 3.0」もHTML 5に対応しており,マスコミが参加できる基調講演でもこの点が強くアピールされた。iPhoneは米Adobe Systems Inc.の「Flash」の利用を認めていないため,動画を配信したい開発者にはHTML 5の利用を呼び掛けていた。搭載済みのローカル・データベースとグラフィックス描画に加え,位置情報や動画の配信に対応した。

 二つのイベントの間に発売されたPalm Preは,2009年1月の「Consumer Electronics Show」で発表された製品である。そのOS「Palm webOS」は,HTML 5の新しい機能を取り入れ,HTMLとJavaScriptというWebの標準技術だけを使ってアプリケーションを開発する大胆なアプローチを採る。発売日当日のショップ前には行列ができるほどの人気ぶりだった。

 HTML 5という新しい波は,Google社に代表されるIT企業やパソコンの世界でとどまらない。まずはスマートフォン,次にケータイを経て,近い将来,家電の世界まで必ず到達するだろう。

『日経エレクトロニクス』2009年8月10日号より一部掲載

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第1部<動向>
Webの標準技術が
プラットフォームに変わる

次世代のWeb標準技術として,ここにきてがぜん注目が高まってきた「HTML 5」。当然のごとくパソコンやスマートフォン,携帯電話機には大きな影響をもたらす。さらに,その影響の範囲は,ほかの家電機器にも広がっていく。

HTML 5を巡る動き

 「Web標準」を巡る動きが,にわかに慌ただしくなってきた。検索サービスを中核にさまざまなオンライン・サービスを提供している米Google Inc.は,HTML 5を基盤技術として採用する方針を固め,2009年5月に米国で開催した開発者会議「Google I/O」で,参加者にHTML 5の採用を強く呼び掛けた。

 HTML 5は,現在World Wide Web Consortium(W3C)で策定作業が進んでいる,次世代のWeb技術標準である。今までのWeb技術がコンテンツなどの文書を表現することに焦点を当てていたのに対し,HTML 5ではアプリケーション・プログラムの実行環境へと大きく舵を切っている。

 HTML 5で記述されたコンテンツを表示するWebブラウザーの対応は,標準の策定に先行して,既に始まっている。米Apple Inc.はパソコン用のWebブラウザー「Safari 4.0」にHTML 5への対応を数多く取り込んだ。パソコン用でシェア2位のWebブラウザー「Firefox」やノルウェーOpera Software社もHTML 5への対応を始めたところだ。Google社自身も「Chrome 2.0」を投入し,HTML 5の機能を取り込み始めた。

 HTML 5への対応はパソコンよりも先に,Apple社の「iPhone」など,いわゆるスマートフォンで進みそうだ。Apple社は6月に公開した「iPhone OS 3.0」でHTML 5への対応を始めた。また同月には米Palm Inc.がHTML 5の機能を利用した新スマートフォン「Palm Pre」を発売した。Google社がスマートフォン向けに提供するプラットフォーム「Android」でも,HTML 5への対応が早晩行われるのは間違いない。

OSの上にプラットフォームを作る

 HTML 5の特徴は,アプリケーション・ソフトウエアを作りやすくするさまざまな機能を備えている点である。ローカルにデータを保存する機能をはじめ,ドラッグ・アンド・ドロップ操作対応による操作性の向上や,緻密な画面描画を可能にするといった改良を加えた。これまでのWebアプリケーションとは一段階レベルが違うアプリケーションを開発できる。

 既にWebアプリケーションでは,Ajax(asynchronous JavaScript+XML)と呼ばれる仕組みを利用したアプリケーションが開発されている。だが,その仕組みは基本的にネットワーク接続が前提で,ネットワークから切り離した状態では十分な処理が実現できなかった。HTML 5の新機能を利用すれば,サーバーに頼らずともアプリケーションを構築できる。いわば,Webブラウザーがアプリケーションのプラットフォームとなる。マイクロプロセサやOS,Webブラウザーの違いを気にせずアプリケーションを作れるようになる。

 HTML 5の登場はパソコンやスマートフォンといったインターネットの利用を前提とした機器にとどまらず,家電機器にも影響を及ぼすだろう。HTML 5はオープンな標準の規約なので,家電メーカーが取り入れやすい。そうなれば,さまざまな機器で共通のアプリケーションが利用しやすくなる。パソコンやスマートフォン向けに作られたアプリケーションが,家電機器でも動作するようになるからだ。同様のことは米Adobe Systems Inc.の「Flash」も目指しているが,特定の企業が占有する技術ではない点が大きな違いとなる。

 それだけではない。標準としてHTML 5が定着することにより,機器が備える役割が変わる可能性がある。共通のプラットフォームを前提に,比較的複雑なアプリケーションを提供できるので,複数の機器を連携させやすくなる。これまでインターネット機器は,インターネットのサーバーが提供する情報やサービスをパソコンに代表される端末機器で利用する形態が普通だった。それが,いくつかの機器を連携させて役割分担したり,協調的に動かしやすくなったりする。さらに,機器がWebサーバーの機能を備えることで,相互に情報を発信できるようになる。すなわち,双方向の通信が一般的になる。

『日経エレクトロニクス』2009年8月10日号より一部掲載

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第2部<実装>
HTML 5採用のPalm Pre
マルチタスク操作を意識

2009年6月に米国で発売されたPalm Preでは,Web技術だけで対応アプリケーションを開発する。同社はこのためにその基盤となる「Palm webOS」を開発した。Palm Preのユーザー・インタフェース構成と,専門家によるiPhoneとの比較を紹介する。

HTML 5の特徴的な要素を先駆的に実装した「Palm webOS」

 米Palm Inc.の「Palm Pre」は,HTML 5を採用して,アプリケーション・ソフトウエア開発のプラットフォームをWeb技術で固めた初めての機器だといっても過言ではない。その基盤となる「Palm webOS」の使い勝手を知るべく,実際にPalm Preを入手して評価した。

 Palm Preは,タッチ操作を中心としたいわゆるスマートフォンであり,米Apple Inc.の「iPhone」や,台湾High Tech Computer Corp.(HTC社)のAndroidフォン「HTC Magic」などと同じカテゴリに属する製品である。

 Palm webOSでは,明確にHTML 5から仕様を取り入れた部分と,HTML 5で策定予定の機能を独自のSDK「Mojo SDK」の中で対応している部分とがある。例えば2次元グラフィックス描画を指定する「ツanvasс^グ」は,Palm社公認のPalm webOSの解説書には明示的に書かれていない。しかし,Palm webOSで採用しているHTMLの描画エンジン「WebKit」は,ツanvasс^グに対応している。内部的にMojo SDKのウィジェットを実装する際にツanvasс^グを使っているもようだ。

 このほか,位置情報を取得するための仕組みやイベント通知の仕組み,マルチタスクなどが盛り込まれている。こうした機能はHTML 5を先取りしたものだと言えよう。

 ただし,Palm wabOS本体は基本的にLinuxベースのバイナリ・プログラムである。HTML 5とJavaScriptだけで実装するのはあくまでアプリケーション・ソフトウエアだ。これから述べるすべての機能がHTML 5で実装されているわけではない。

起動画面は標準的な構成

 Palm Preを起動し終えた状態では,「ホーム画面」が表示される。画面上部には時刻表示や電波状況,電池残量,接続している携帯電話網などが表示される。このあたりはごく普通の表示だ。画面下部には比較的よく利用するアプリケーション・ソフトウエアのアイコンが登録された,「ドック」が表示されている。ここでアイコンをタップ(1回触って離す)操作をすれば,対応するアプリケーション・ソフトウエアが起動することになる。

 ドックに並んでいるアイコンは,電話と予定表,電子メール,連絡先,およびホーム(上向き矢印)である。これらのうち,ホームだけはアプリケーション・ソフトウエアと結び付いていない。Palm Preに組み込み済みで,ドックに登録されていないアプリケーション・ソフトウエアを呼び出すためのアイコンである。このアイコンをタップすると,下からウインドウが上がってくるようなアニメーションが表示される。そのウインドウに,Palm Preにインストールしたアプリケーションのアイコンが一覧表示される。

『日経エレクトロニクス』2009年8月10日号より一部掲載

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第3部<現状>
要点は表現力向上
自動処理向きの機能も追加

HTML 5が備える,多種多様な新機能を紹介する。家電などにも使える機能を備えるほか,表現力も高めている。競合するといわれているが,Flashとは役割が違ってきそうだ。

HTML 5における新機能

 「HTML 5は,10年の間に登場した新しいWeb技術を統一した共通仕様になる。だからこそ,機器メーカーもHTML 5を学ぶ時期に来ている」(World Wide Web Consortium(W3C)Site Manger for W3C/Keio,慶応義塾大学 大学院 政策・メディア研究科 教授の一色正男氏)。

 一般に「HTML 5」と呼ばれている規約のさまざまな新機能は,W3Cの「HTML Working Group(WG)」が策定しているHTML 5だけではなくJavaScript関連の新機能によって実現されている。大きく分けると,データの表現形式をHTML WGで「HTML 5」として定め,プログラムの機能性を高める規約は「Web Applications Working Group(WG)」が定めるという分担になる。

 ここではこれらの新機能について,コードの例を交えつつそれぞれ紹介していく。Webブラウザーによって温度差はあるものの,HTML 5の個別の機能の実装は既に始まっている。

 HTML WGで定めているデータ表現に関しては,グラフィックスやマルチメディア・データの再生といった表現力を高めるものに加え,文書の構造を明記して,コンピュータによる文書データの取り扱いを楽にするものなどが盛り込まれる。こうした機能は,HTML 5対応の端末に家電を制御させるような用途で有用だろう。

 また,Web Application WGが定める機能面では,データの保存機能やWeb SocketのようにWebアプリケーションの作りを根源から変えてしまうものから,位置情報の取得のような新しい分野のアプリケーションを作成するためのものまである。

 このようにHTML 5を使うと,マイクロプロセサやOSの違いを超え,多彩な表現力を有するアプリケーションを開発できる。このため,米Adobe Systems Inc.の「Flash」と競合するとの見方もある。

『日経エレクトロニクス』2009年8月10日号より一部掲載

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