神奈川県屈指の観光地,江の島と大船を結ぶ湘南モノレール。2008年2月24日,湘南江の島駅行きの下り列車は,定刻通りに途中駅の湘南深沢駅を出発した。その直後,列車が急加速。運転士の操作とは全く異なる状態に陥った。隣駅である西鎌倉駅の手前でブレーキが利かずに,同駅を通り越す羽目に。そして,その先に設置された分岐器に衝突して停止した。

 あわや大惨事になるところだった。西鎌倉駅で擦れ違うはずの下り列車が近づいてくるのを見て取った上り列車の運転士は,とっさに非常ブレーキを操作し緊急停止した。その目の前で,暴走する下り列車は分岐器に衝突し,上り列車の進路を遮る形で止まった。その距離,わずか19mだった(図)。

 問題の下り列車が西鎌倉駅の所定位置で止まらなかったのは,列車が運転士の操作通りに動かなかったため。運転士は西鎌倉駅の手前の湘南深沢駅を出発する際,「いつものように,マスコンをブレーキ5ステップから力行(動力車で動力を発生させ運転すること)1ノッチか2ノッチに操作したところ,急加速した」と証言する。マスコンとはワン・ハンドル・マスタ・コントローラの略称で,列車の加減速を制御する主幹制御器とブレーキの操作が1本で可能なハンドルのことを指す。急加速に驚いた運転士は,マスコンをブレーキ2ステップに入れる。その後も,「ブレーキ2ステップか3ステップに入れながら,速度を調節して走った」(運転士)。

〔以下,日経ものづくり2009年8月号に掲載〕

図●事故を起こした湘南モノレールの列車
運転士がブレーキ操作をしたのにブレーキが利かずにホームを通過し,その先にある分岐器に衝突して止まった。対向列車が迫っていた。けが人などは出なかった。