「だから,部下が動く トヨタ流 人づくり」では,今,多くの日本メーカーの管理者が頭を悩ませている社員の人材育成に関して,トヨタ自動車流の考え方や方法を伝授します。社員にやる気とモチベーションを与え,自ら動く組織をつくるための直接的,間接的なヒントが満載です。本コラムは中部産業連盟が開催するセミナー「トヨタ流モノづくりと人づくりの心・伝承塾」の内容を編集部が取材し編集したものです。

 ものづくりにおいて最も大きな付加価値の源泉は,何と言っても,優れたアイデアです。優れたアイデアの発想が,良い製品企画や技術,きめ細かなサービスなどへと発展し,お客様の心を満足させることにつながっていくからです。付加価値につながる仕事こそが「正味の仕事」です。そういう意味で言えば,優れたアイデアを発想することは,「正味中の正味の仕事」という言葉がピッタリきます。

 では,皆さんの会社や職場では,「これは」と思うようなアイデアがたくさん提案されていますか? または,それほど頻繁ではなくても,思わずうなってしまうような質の高いアイデアが時々出てきていますか? うーむ…。残念ながら,自信なさげに下を向いてしまうことがあると思います。耳を澄ませば,多くの会社や職場から「なぜ,優れたアイデアが出てこないのか」と不満の声が聞こえてきそうです。

 しかし,会社や職場のリーダーである管理者が,自らそうした不満の声を上げたり,アイデアが出てこない状況を放置してはいけないと思います。会社や職場で問題が起きているのであれば,それをうまく解決する方向にメンバーである社員を導いて解決していくことが,管理者に求められる重要な仕事だからです。アイデアが出てこないことを不満に思う前に,どうしたらアイデアがうまく出てくるのかを考え,試行錯誤してみることが今の管理者には必要ではないでしょうか。

 私は長らく技術者として働く中で,多くの新技術のプロジェクトに携わり,特許取得につながるような技術開発も手掛けてきました。また,優れた技術を開発した社内外の多くの社員と話す機会にも恵まれました。これらの体験や知見から,アイデアを発想するにはコツがあることが分かってきました。それは,柔軟な発想が出てくるように仕掛けを施すということです。次の四つが考えられます(図)。

〔以下,日経ものづくり2009年8月号に掲載〕

図●アイデア発想のコツ
柔軟な発想が出てくる仕掛けを施すのは,管理者の大切な仕事の一つと考えるべき。

肌附安明(はだつき・やすあき)
HY人財育成研究所 所長
トヨタ自動車にて約30年間にわたり,多くの新車開発プロジェクトで設計や生産設備の立ち上げ業務をこなしてきた技術者。その後,同社TQM推進部の課長として役員への企画提案や,社員の人材育成,協力会社の育成指導を約10年間行った。2008年9月に同社を定年退社,HY人財育成研究所を立ち上げ,所長に就任。トヨタ流の業務の進め方や人材育成について講演・執筆活動を精力的に展開している。主な講演に,本誌および中部産業連盟で開催する「トヨタ流モノづくりと人づくりの心・伝承塾」などがある。