家庭向け補助金の復活や余剰電力の高額買い取り制度の創設など,CO2排出の少ない太陽電池が急拡大する中,膨大な化石燃料を使って大量のCO2を排出する火力発電の未来は一見暗い。だが,それほど悲観的になる必要はなさそうだ。三菱重工業は,CO2排出を9割減らす技術や世界最高効率の複合発電といった新技術を武器に,火力発電の未来を描き出す。

 三菱重工業は2009年6月,火力発電関連で立て続けに大きな発表をした。まず同月3日の原動機事業説明会で,開発を進めてきた世界最高の発電効率と世界最大出力を備える「J形ガスタービン」6基が,関西電力の天然ガス複合発電向けに採用されることを明らかにした。これがJ形の初受注になる。さらに同月22日,二酸化炭素(CO2)排出量を最大9割減らす,オーストラリアの石炭ガス化複合発電のプロジェクトに,三菱商事と共に参加することを表明した。

 この二つの発表は,同じ火力発電でも,燃料が天然ガスと石炭で異なるので関係が薄いように見えるが,火力発電の将来を左右する基本技術を共に含んでいる。天然ガスや石炭といった化石燃料を燃やす火力発電は,CO2排出が避けて通れない。最近は,太陽電池などを筆頭とする再生可能エネルギに押され気味。原子力発電もCO2排出が少ない点が注目されて追い風を受けている。

 しかし,ここで落ち着いて考えてみたい。例えば石炭は,埋蔵量が豊富で産地に片寄りが少ないなど,調達面から見たら優等生。さらに太陽と風まかせの再生エネルギや出力調整に時間がかかる原子力発電とは異なり,火力発電は短時間で最大出力を引き出せる機動性も備える。昼間のピーク電力の対応には欠かせない電源だ。では,こうした強みを生かし,CO2の大量排出という課題を克服する道はあるのだろうか。これを見いだせば,火力発電の未来が浮かび上がってくる。

CO2を回収して地中に

 まずオーストラリアのプロジェクト。これは,石炭の主要産地である,同国のクインズランド州政府が全額出資するZeroGen社が推進している。同社は,2015年に出力530MWの石炭ガス化複合発電を稼働させ,そこから出るCO2の65~90%を回収,地中貯留する計画だ。三菱重工は,発電設備全体の製作,供給,建設を独占的に担当する。

 このプロジェクトを支える基本技術が複合発電と,石炭ガス化/CO2回収技術である。これまで火力発電は,石炭や石油,天然ガスを燃料にしてボイラで蒸気を造り,その蒸気の圧力で発電機につながったタービンを回す方法(汽力発電)が主流だった。ところが,より発電効率を高めるため,蒸気タービンだけでなくガスタービンを加えて二つのタービンで発電する複合発電が1980年代に登場した(図)。

〔以下,日経ものづくり2009年8月号に掲載〕

図●複合発電は二つのタービンで発電する
複合発電は,まずガスタービンで発電した後,その排熱を利用して蒸気タービンでも発電するので発電効率が高い。