「まだ詳細なデータはお渡しできないが,不活性とされてきたフラーレンでも慢性毒性を示唆する結果が出た」。こう明かすのは,国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター毒性部部長の菅野純氏だ。
1年前に本誌は,菅野氏らが実施した,マウスに多層カーボン・ナノチューブ(MWCNT)を「大量投与」する実験において中皮腫が高い確率で発生したことを報道した。実は,菅野氏は既にこの実験の時から,フラーレンの慢性毒性を疑い始めていたという。
その実験とは,p53ヘテロ欠失マウスの腹腔内に検体を直接投与するというもの。検体は,MWCNT,アスベスト(クロシドライト),フラーレンそれぞれの懸濁液(濃さは各溶液とも1mL当たり3mg)と,何も含まれない溶媒だけの計4種類。投与量は各1mLで,マウスは検体1種類につき19匹用意した。
実験の狙いは,MWCNTの毒性評価にあった。MWCNTの中には,アスベストで問題になった中皮腫発がん性の高い繊維状粒子のサイズと同等のもの,具体的には長さが5μ~20μm前後,直径が100nm前後のものが含まれる。そこで,MWCNTに加えて,アスベストを陽性対照,繊維状粒子ではないフラーレンを陰性対照として選択し,実験が行われた。
〔以下,日経ものづくり2009年8月号に掲載〕