これまで本連載では,計測器を使った測定における不確かさの算出方法を中心に解説してきた。今回は,製品の生産現場での良品と不良品の判定に不確かさが与える影響を説明する。不確かさの扱い方次第では良品を不良品と判定したり,不良品を良品と判定したりするケースが増える。これはメーカーにとって受け入れ難い。品質の低下やコスト増大につながるからだ。こうしたケースを防ぐには,不確かさを把握し,良品/不良品の判定基準を適切に設定する必要がある。(本誌)

合否判定の概念図

豊田 豊
青木 俊明
アナログ・デバイセズ

 前回(2009年6月29日号)までは,デジタル・マルチメーターやスペクトラム・アナライザを使ったさまざまな測定における不確かさの求め方を中心に解説してきた。

 トランジスタなどの半導体が実用化されて以降,各種のプロセスに適合したさまざまな変換アーキテクチャが提案され,実際にその価値が市場で試されてきた。現在,一般的に多く利用されているA-D変換器のアーキテクチャは,次の5種類が主流になっている。

 今回は視点を変えて,電子機器や電子部品の生産現場において製品の出荷検査を実行する際,その合否判定に測定の不確かさがどのような影響を与えるかについて解説する。不確かさの扱い方によっては,不良品であるはずの製品を市場に出荷してしまったり,良品であるはずの製品を不良品と判定してしまったりする事態を招くことになる。前者の場合は市場における企業信頼度の低下に,後者の場合は歩留まり低下によるコスト増大に直結するため,注意が必要だ。

最適な合否判定基準とは

 それでは,量産中の製品の出荷検査を想定して,測定の不確かさを考慮した合否判定方法を説明していこう。

 電子機器や電子部品にはさまざまな特性値,すなわちパラメータがある。このうちの一つを「判定しようとするパラメータ」と置く。例えば,ある電子部品において,1 GHzにおける出力電力P(mW)に対して出荷規格値が設定されている場合,判定しようとするパラメータは「1 GHzにおける出力電力P」になる。

 実際に,このパラメータを測定器で測定して出荷規格値に照らし合わせ,出荷規格値の上限値(SU)と下限値(SL)の間に存在すれば合格,その外側にあれば不合格と判定する。つまり,図1においてA点は合格,B点は不合格と判定できることになる。

『日経エレクトロニクス』2009年7月27日号より一部掲載

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