ネットブック(Netbook)。「小型で低価格な,インターネットへのアクセスを主目的としたノート・パソコン」を指すこの言葉が,こんな短期間で一般に認知されることを予測できた人は少ない。この言葉の生みの親である米Intel Corp.でさえも,市場の急拡大に右往左往しているほどである。

 ネットブックの直接的なインパクトは,年間数千万台という新たな市場を生み出したことである。それはそれで画期的だ。しかし,Intel社のAtomプロセサをベースにした現在のネットブックが,今後も急成長を維持するかどうかは不透明だ。やがて成長は止まり,「Windowsを搭載した超低価格なノート・パソコン」というニッチな存在になるかもしれない。そんな見方もパソコン業界には多い。

『日経エレクトロニクス』2009年7月27日号より一部掲載

7月27日号を1部買う

第1部<展望>
ネット端末は戦国時代へ
Intel/MS支配が終えん

ネットブック市場は,複数のプラットフォームや製品形態が入り乱れる激戦模様になる。「価格勝負」では分が悪い国内メーカーは,ネット端末とサービスを一体化した新しいビジネスを模索する必要が出てくる。

成功の要件がそろう

 「ネットブックは今でこそ,米Intel Corp.のAtomプロセサを搭載した,小型・低価格のノート・パソコンという定義がある。しかし今後,この製品ジャンルは発散し,ネットブックという言葉は単なるモバイル・ネット端末の代名詞になっていくだろう」。ある台湾大手パソコン・メーカーの製品担当者は,こう予測する。

 2009年末以降,ネットブック市場はいよいよ“第2フェーズ”に入る。市場には,パソコン関連のメーカーのほかに,携帯電話機関連のメーカーなど“異業種”が入り込み,スマートフォンとノート・パソコンの中間市場で争奪戦が起こる。冒頭のコメントは,こうした市場に新しいネット端末が続々と登場する今後を予想したものだ。

売れる条件を提示

 2007年10月に台湾ASUSTeK Computer Inc.が最初のネットブック「Eee PC 701」を投入して以降,ネットブック市場はすさまじい勢いで成長している。米Goldman Sachs社の調査によると,2007年には世界でわずか20万台にすぎなかったネットブックの出荷台数は,たった1年で1140万に達した。出荷台数は2009年には2200万台,2010年には2950万台になると予測されている。2950万台という数字は,ノート・パソコン市場全体の17%に相当する。国内市場では,ネットブックの人気はさらに高い。BCNの調査では,国内では2008年末の段階で,ノート・パソコンの販売台数に占めるネットブックの割合が30%を超えたという。

『日経エレクトロニクス』2009年7月27日号より一部掲載

7月27日号を1部買う

第2部<分析>
ネットブック周辺へ切り込む
スマートブックは価格で攻める

ネットブックの成功は,携帯電話機業界などにも大きな刺激となった。今後,さまざまなプレーヤーがネットブックの周辺市場に参入し,成功を模索する。鍵は「低価格」と「明確な用途提案」にある。

スマートブックのデザイン・コンセプト・モデル

 2009年末以降,ネットブックが開拓したスマートフォンとノート・パソコンの中間市場で,スマートブック,MIDなどと呼ばれる新しいカテゴリの製品が多数発売される。ネットブックも含めて用途の重なりはあるものの,これらの新規参入者たちはそれぞれ,ネットブックに対する優位性をうたい,市場の切り込みを図る。さらに,ネットブックの上には,「超薄型ノートブック・パソコン」(CULVノート)という製品ジャンルができる。こちらも,ネットブックから一部の市場を奪っていく。

スマートブック,理想のネット端末目指す

 スマートブックは,端的に言ってしまえば,インターネットにつながった理想の「モバイル・シンクライアント」を目指すものである。Windowsをまとったネットブックはあくまでパソコンだが,内実は多くのユーザーがインターネット端末として使っている。であるなら,それを洗練させた端末を作れば,それなりに大きな市場を獲得できるかもしれない。ネットブックの成功を見て,そう感じた人は多いはずだ。 実際に行動に出たのが,携帯電話機向けにARMコア・ベースのプロセサなどを開発する,米Qualcomm Inc.と米Freescale Semiconductor, Inc.。両社は共同でスマートブックを提唱し始めた。Freescale社は,2009年6月に開催された「Computex Taipei 2009」で,米国の大学Savannah College of Art and Design(SCAD)と協力して作成したスマートブックのコンセプト・モデルを披露した。ネットブックとは異なるものであることを印象づけるのが狙いとみられる。

 スマートブックの主な仕様は,およそこうなる。(1)ARMコアを使ったプロセサ,(2)画面サイズは4~10型,(3)ストレージはHDDではなくNANDフラッシュ・メモリ,(4)OSはAndroidを含むLinuxを採用,(5)3G通信機能を内蔵,などである。

『日経エレクトロニクス』2009年7月27日号より一部掲載

7月27日号を1部買う