JFEテクノリサーチは、衝撃エネルギの吸収特性や断熱性、防振性に優れた中空の鉄球「TEC-BALL」を開発した。水に浮くほど軽いため、自動車のバンパー周り、センターピラーの補強などに使えば、車体の質量をあまり変えずに衝撃エネルギ吸収量を大幅に増やすことができると期待している。

 TEC-BALLは、鉄の殻(から)でできた中空の球体である(図左)。半割りにして断面を観察すると、殻は極めて薄い(図右)。代表的な寸法は、直径が3~4mm、殻の厚さが70~100μmで、見かけの密度にして0.8~0.9g/cm3と小さく、水に浮くほど軽い。球の寸法は、後述する芯材寸法で決まり、直径0.5mm程度の球も作製できる。
 高温で消失する球状の型材を芯とし、これに酸化鉄の微粒子をコーティングし、還元・焼結して造る。主原料である酸化鉄は、製鉄プロセスから大量に発生する副産物である。これを高度に精製したものを、当社と同じJFEグループ社が供給している。
 量産設備を立ち上げたわけではないのでコストの試算は難しいが、比較的安い酸化鉄を主原料としているため、量産規模次第で、市場に受け入れられる価格設定ができると期待している。
 芯材は昇温する過程で溶け、気化して外部に抜ける。このため球の内部が空洞になる。鉄殻中の炭素は0.02%程度だから、“鋼球”でなく“鉄球”ということになる。
 還元し、焼結する過程で、体積は約80%収縮する。このため、最終形状から焼結前の“グリーン”の形状を設計するにはノウハウが要る。工程を適切に制御することが、安定した性能を実現するうえで重要である。

以下,『日経Automotive Technology』2009年9月号に掲載
図(右)TEC-BALL:一見、単なる金属の玉に見える。(左)TEC-BALLの断面:切ってみると中は中空。