瓦記録で1Tビット/(インチ)2を超える

 従来の記録媒体やヘッドを大幅に変更することなく,HDDの面記録密度を現在の10倍以上に高める可能性があるとして,にわかに注目を集めている磁気記録技術がある。「shingled write recording(瓦記録)」と呼ばれる方式である。将来のHDD向け技術を産学協同で検討している情報ストレージ研究推進機構(SRC)は,数ある新技術のうち「最も現実的」(SRC 専務理事の押木満雅氏)と位置付ける。SRCは,2010年5月の公開をメドに,面記録密度2Tビット/(インチ)2を実現できる技術を検討しており,瓦記録はその中核になる可能性が高い。SRCの中には,瓦記録と後述する「2次元磁気記録」を組み合わせることで,5Tビット/(インチ)2も射程内との見方があるという。現行製品の面記録密度400Gビット/(インチ)2の10倍以上に相当する値だ。

 これまでHDDの記録密度を1Tビット/(インチ)2以上にするには,現状からの飛躍が大きい新技術の導入が欠かせないとされてきた。ディスクリート・トラック媒体やビット・パターンド媒体,熱アシスト記録やマイクロ波アシスト記録がその候補だった。ところが,これらは技術的な難易度が高く,導入に懐疑的な企業が少なくなかった。

 これらと比べて,瓦記録の実現に必要な技術は現在の改良で到達できるとの見方が多い。まだシミュレーションの段階であるにもかかわらず,注目を集めるのはこのためである。この技術を実用化できれば,1Tビット/(インチ)2を超えるHDDの製品化が一気に現実味を帯びる。

『日経エレクトロニクス』2009年7月13日号より一部掲載

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