黒川 綾子
マルチメディア振興センター 上席研究員

 南アフリカ共和国といえば,古くはアパルトヘイト,最近ではエイズの蔓延や治安の悪さなど,マスコミの報道からはマイナスの印象も強い。しかし,この国は経済的にアフリカ地域のリーダーであり,世界経済では中堅の位置を確保している。

 南アフリカのGDPは世界第28位で,アフリカ大陸全体の1/5,サハラ砂漠以南では48%を占める。国民一人当たりの平均収入もサハラ砂漠以南のアフリカ諸国平均の6倍を超え,マレーシアやブラジルと肩を並べる。

南アフリカのGDP成長率の推移

ワールドカップ契機に活性化

 南アフリカは古くから製造業を中心に外資の受け入れに積極的であり,政府は有望な出資先として,自動車,化学,情報通信,エレクトロニクス関連などをアピールしている。人口は約5000万と,アフリカ大陸ではナイジェリアやエジプトに次いで多いため,大陸進出の拠点としての魅力は大きい。英語が公用語であり,中等教育(高校まで)の就学率は90%を超えることから,ブルーカラー層の労働力の質は比較的高いと考えられる。

 昨今の世界金融危機は,南アフリカ経済にも深刻な打撃を与えている。最近数年間は安定成長が評価されてきたものの,2007年に為替変動とエネルギー資源の世界的な価格上昇からインフレ率が急激に上昇を始め,2008年には金融危機の影響でGDP成長率は約3%に下落している。2008年後半は,製造業が大幅なマイナス成長となった。家庭の消費も冷え込んでおり,耐久消費財に対する支出が落ち込んでいる。2009年の成長率はマイナスに転じている。

 こうした中,政府と産業界が経済活性化の切り札として期待をかけているのが,2010年6~7月に同地で開催予定の「FIFAワールドカップ」である。各産業部門では数年前からワールドカップを目標にインフラ整備に励み,2007年には建設ブームが起こった。政府は2009年3月,地方でのサッカー競技場などのインフラ開発投資に対し,3年計画で約8000億ランド(1ランド=約12円)の供与を予定していると発表した。

『日経エレクトロニクス』2009年7月13日号より一部掲載

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