HD映像を処理可能な「HDケータイ」が,続々と姿を現している。ディスプレイがWVGA程度の携帯電話機にとって,HD対応は一見,不要な機能に見える。実際,国内でのみ独自の進化を遂げる,“ガラパゴス・ケータイの典型”と揶揄する声も聞こえてくる。しかしHD対応は,単に国内端末だけの機能にとどまりそうにない。携帯電話機はHD映像対応をきっかけに,他のさまざまなデジタル機器と接続され,デジタルAV機器の「HDネットワーク」に,仲間入りすることになる。

HD映像対応品が続々と登場

 HD画質の映像を符号化/復号化する機能を備えた,いわゆる「HDケータイ」が続々と登場している。韓国Samsung Electronics Co., Ltd.の「OMNIA HD」,東芝の「TG01」,日立製作所の「Mobile Hi-Vision CAM Wooo」(以下,HV Wooo)などが代表例だ。中でも,OMNIA HDとHV Woooは,720p(1280×720画素,プログレッシブ)映像の撮影機能を備えるなど,HD映像対応を前面に打ち出している。

 次々に登場するHD映像対応の端末に対し,そのあまりの高機能さを揶揄する声があるのも事実だ。「ディスプレイの画素数はWVGA(800×480画素)程度なのに,一体どこで見るというのか」「携帯電話機にこれ以上,新たな機能は必要ない」「どうせ,日本だけで進化する,いわゆる『ガラパゴス・ケータイ』の典型だろう」─。

 しかし,携帯電話機の開発者やサービス事業者の動向を見ると,HD映像対応の流れは一過性のものではなさそうだ。今後,多くの携帯電話機において,HD映像への対応が標準機能になる。日本だけでなく,海外でも当たり前になる可能性がある。

HD対応はケータイの標準機能に

 携帯電話機のHD映像対応が,国内市場だけにとどまらないであろう最大の理由は,AV機器やコンテンツのHD映像対応が世界各地で急速に進展しつつあることだ。

 薄型テレビやBlu-ray Disc(BD)プレーヤー/レコーダーなど,据置型のデジタルAV機器は,HD映像対応が標準である。米国や欧州の一部の国など,地上波放送がアナログからデジタルに完全移行済みの地域では,HD映像をやりとりする機能が当たり前になっている。加えて,デジタル・ビデオ・カメラなどの携帯機器においても,HD映像対応は進んでいる。HDMIや,大容量のメモリ・カードの採用も進み,HD映像コンテンツを機器間で自在にやりとりする環境も整いつつある。

『日経エレクトロニクス』2009年7月13日号より一部掲載

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