今回のSIDでは二つの異変があった。一つは参加者が激減し,発表会場に閑古鳥が鳴いたこと。もう一つは,従来の単純な大型化や薄型化,高精細化といった競争軸がほぼ消えたことだ。新たな競争軸となったのは,フレキシブル化,低消費電力,そして3次元(3D)映像への対応である。フレキシブルな電子ペーパーや,印刷で作る有機ELパネルに実用化のメドが立ち始めた。液晶技術は,消費電力が非常に小さい反射型などに注目が集まった。3Dディスプレイも2010年に始まる本格的な3D映画対応Blu-ray Disc発売に向けて,各メーカーが新技術を磨いていることが明らかになった。

方向性はフレキシブル,低消費電力,3D

 「ガラガラ」─。2009年5月31日~6月5日に米国テキサス州のサンアントニオ市で開催された,ディスプレイ技術の国際学会「Society for Information Display(SID)Display Week 2009」を一言で表すとこうなる。深刻な不況に加え,新型インフルエンザの影響などで直前のキャンセルが相次いだために,参加者が激減した。

 特に,有機ELパネルなど花形のテーマの講演に向けた1000席ほどのいすが並ぶメイン会場は,ほとんどのセッションで50~100人しか参加者がおらず,空席ばかりが目立った。展示会場もブースの説明員ばかりが目に付く状況で,「毎年,SIDに来ているが,いつも講演会場は満員で,展示会場は歩くのも大変なほど混み合う。今回のような閑散とした状況は初めて」(ある日本のメーカーの技術者)という。

電子ペーパーと3D映画が牽引

 異変はそれだけではない。ディスプレイの競争軸が大きく変わったことだ。従来のディスプレイにあった単純な大型化や薄型化,そして4K×2K,あるいはそれ以上の高精細化という競争軸は,今回のSIDではほとんど姿を消した。代わりに明確になった流れが,(1)フレキシブル化やそれを実現するための印刷製法の採用に伴う低コスト化,(2)大幅な低消費電力化,(3)3次元(3D)映像への対応,の3点である。

 背景にあるのが,米国での電子ペーパー端末の急増と3D映画の本格的な勃興である。今回のSIDで基調講演に立った米Plastic Logic社 Vice President, TechnologyのMartin Jackson氏は,米国の新聞産業が崩壊の危機にあること,そして,電子ペーパー技術にその窮状を救う可能性があることを訴えた。具体的には,米大手の新聞が軒並み赤字決算となり,事業存続の危機にさらされている新聞事業者が多いという事実がある一方,米Amazon.com,Inc.やソニーが米国で販売している電子ペーパー端末群が2009年第1四半期だけで2500万米ドル超(約25億円超),前年同期比で100%超の伸びを示しているというのである。

『日経エレクトロニクス』2009年6月29日号より一部掲載

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