ソニー対Amazonが明日への道を開拓

 「ソニーのエレクトロニクス部門の中では今,“あの事業”がダントツの成長率を誇っているはずだ」(業界関係者)。この事業を知って,驚く読者は多いかもしれない。国内市場で一敗地にまみれ,撤退を余儀なくされた経験を持つ電子書籍事業だからである。

 ソニーは同事業の拠点を米国に移すことで成功をつかみ,ここにきて急成長を遂げている。「この経済不況下でも,売り上げが予想以上に伸びている」。同事業の責任者である野口不二夫氏の声は弾む。ソニーが米国で最初の電子書籍端末を投入したのは2006年10月注1)。それから2008年11月末までの約 2年間で販売してきた端末は,累積30万台。ところが,その後2009年1月末までの2カ月間で,販売台数は累積40万台にまで急増した。

『日経エレクトロニクス』2009年6月29日号より一部掲載

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第1部<動向>
SamsungにGoogleも参戦
市場は好循環に突入

電子書籍市場に今,数多くの有力企業がなだれ込もうとしている。市場で先行するAmazon.com社とソニーは,参入を狙う多くの企業の背中を押すとともに,成功の要件を明らかにした。

成功の要件がそろう

 「韓国Samsung Electronics Co., Ltd.が参入してきたということは,この市場が約束されたものであることを意味するに等しい」(韓国の電子書籍端末メーカーのCEO)─。

 2009年から2010年にかけて,米Amazon.com,Inc.やソニーに続けとばかりに,名だたる有力企業が相次いで電子書籍市場に参入する。例えば,「市場の開拓よりも後追いで他社から市場を奪うのが得意」と一般に評されるSamsung Electronics社は,2009年6月から順次,韓国や北米などで電子書籍端末の発売に踏み切る。米Google Inc.は2009年末,電子書籍販売サービスを始める計画だ。同年6月に米国で開催された出版業界向けのイベントで明らかにした。米国のメディア・コングロマリットであるHearst Corp.やNews Corp.,米国最大手書店のBarnes & Noble社などコンテンツ大手各社も参戦する。このうちHearst社は,自ら電子書籍端末まで開発して市場に投入する。

 米Apple Inc.が近く電子書籍市場に本格参入するというウワサも絶えない。同社のオフィスの前に,書籍を山積みにした何台ものトラックが連日のように止まっているという逸話は,もはや業界では有名だ。同市場で先行するソニーも,「Apple社は当然やって来るだろうと思っている」(Sony Electronics社 Digital Reading Business Division, Deputy Presidentの野口不二夫氏)と待ち構える。

 これまでマイナーな存在だった電子書籍市場は,さまざまな業態の有力企業が入り乱れ,互いにしのぎを削り合う大混戦の舞台へと変貌する。

『日経エレクトロニクス』2009年6月29日号より一部掲載

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「Kindle」徹底解剖
─サプライ・チェーンからコスト分析まで─

オンライン書籍販売最大手のAmazon.com社。決してハードウエア・メーカーではない同社が,電子書籍端末「Kindle」をいかにして作ったのか。実は,Kindleを開発・設計するための子会社を2004年に立ち上げていた。そのKindleは,もはや同社にとって欠かせない大きな収益源になっている。

2009年2月に発売された「Kindle 2」。価格は359米ドル
(写真:中村 宏)
『日経エレクトロニクス』2009年6月29日号より一部掲載

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第2部<端末の姿>
ケータイからネットブックまで
専用端末以外に複数が併存

電子書籍端末として市場に受け入れられるのは,決して専用端末だけではない。携帯電話機やネットブックなど,3型強~11型強のディスプレイを備える機器がその候補となり得る。これらは利用形態などによって並存することになりそうだ。

解は一つではない

 2009年に入り,電子書籍コンテンツを読むための専用端末が世界各地で続々と登場し始めた。それは,まさに“雨後のたけのこ”と表現するのにふさわしい。

 電子書籍事業において,端末はその成否を左右する重要な要素である。しかし,端末だけがポツリと存在しても,何の用も成さない。電子書籍事業は,魅力のあるコンテンツと,そのコンテンツに適した使いやすい端末が組み合わさって,初めて成功する。

 実際,電子書籍関連の新たなビジネスの構築をもくろむコンテンツやサービスの事業者は,その事業に最適な端末を必死になって探し始めている。「端末の動向は常にチェックしている。魅力的な端末が出てくれば,すぐにでも検討を始めたい」(国内の大手新聞社)。コンテンツ提供者からは,こんな声がよく聞かれる。

候補は3型強~11型強の端末

 コンテンツやサービスの事業者が求める電子書籍端末は,必ずしも米Amazon.com,Inc.の「Kindle」やソニーの「Reader」といった専用端末だけに限らない。携帯電話機やスマートフォン,電子辞書,ネットブックなどの端末も選択肢となり得る。

『日経エレクトロニクス』2009年6月29日号より一部掲載

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第3部<電子ペーパー>
E Ink“一極支配”から脱却へ
独自液晶で米ベンチャーも挑戦

既存の電子書籍端末は,ほとんどがE Ink社の電子ペーパーを採用している。この状況が大きく変わる。E Ink社に競合する複数の技術が実用段階に入るからだ。端末メーカーにとっては選択肢が増え,さまざまな特徴を打ち出せるようになる。

選択肢が急拡大

 電子書籍専用端末の最大の特徴は,電子ペーパーを搭載している点にある。電子ペーパーは,液晶パネルなど既存のディスプレイに比べ,紙に近い文字の見やすさと消費電力の低さが大きな特徴であり,専用端末の実現には欠かせない部品だ。

 しかし,端末メーカーがこれまで採用できた電子ペーパーは,事実上,たった1種類しかなかった。米E Ink Corp.が開発する白黒表示の電子ペーパーである。同社だけが電子書籍端末に適した電子ペーパーを実用化していたからである。

 このため,米Amazon.com,Inc.の「Kindle」やソニーの「Reader」をはじめ,市場に存在する数十種類もの専用端末のほぼ100%は,E Ink社製の電子ペーパーを採用している。そうした事情もあってか,専用端末の仕様の多くはかなり似通っており,代わり映えがしない。端末メーカーにとっても,専用端末の“顔”ともいえる電子ペーパーに差分がない以上,独自の特徴を打ち出すことが難しかった。

選択肢が一気に増える

 こうした状況が,2009年から2010年にかけて大きく変わろうとしている。電子書籍端末向けの電子ペーパーの選択肢が,一気に増える見込みだからである。端末メーカーによる電子ペーパーの選択次第で,端末の特徴をガラリと変えたり,独自の特徴を打ち出したりできる状況が,ようやく生まれる。E Ink社の“一極支配”からの脱却が,いよいよ始まる。

『日経エレクトロニクス』2009年6月29日号より一部掲載

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