欧米メーカー勢が圧倒的なシェアを握る無線LAN用IC市場において,孤軍奮闘していた国内メーカーがあった。2000年に創業したキーストリームである。待機時消費電力の低さを強みにした独自開発のICがMicrosoft社の携帯型音楽プレーヤー「Zune」に採用されるなど注目を集めた。ところが,志半ばの2009年春,突然姿を消した。気鋭の無線LANベンチャーに,いったい何があったのか─。

キーストリームが開発した無線LAN用IC「KS2030」(左)と「KS2101」(右)
キーストリームが開発した無線LAN用IC「KS2030」(左)と「KS2101」(右)

最悪のクリスマス・プレゼント

 キーストリームの創業は2000年。2004年に,待機時消費電力がわずか300μWと低いIEEE802.11b対応無線LAN用送受信ICを独自開発して注目を集めた。同社のチップセットは,米Microsoft Corp.のほか東芝の携帯型音楽プレーヤー「gigabeat」などに採用され,着実に実績を積んでいるように見えた。携帯電話機やデジタル・カメラといった機器への無線LAN搭載が現実味を帯び,キーストリームの低消費電力技術があらためて注目を集める中での,突然の決定だった。

 今回の解散は,キーストリームにとっても寝耳に水の出来事だったようだ。ある関係者は,「2008年の12月25日,主要株主であるルネサステクノロジから,突然通告された」と打ち明ける。2009年3月末までにキーストリームの事業をルネサステクノロジに譲渡し,会社を解散することが決定した,という内容だった。キーストリーム関係者によると,事前にそうした決定がなされる予兆はほとんどなかったという。継続的に経費削減は求められていたものの,運転資金の調達依頼にも前向きな対応が示されていた。突然の通達は同社メンバーにとって「最悪のクリスマス・プレゼント」(関係者)だった。

 ただし,この決定の前からキーストリームの経営状態に黄信号がともっていたのは事実だ。同社の2008年の売り上げは,わずか1億4000万円。この数字は13億6000万円という当初予算の約1/10で,前年の半分にも満たない。技術者を含む30人の社員を養う運転資金にも事欠き,2008年春以降,債務超過の状態にあった。キーストリーム側の認識がどうあれ,このような状況では主要株主であるルネサステクノロジが存続は難しいと判断してもおかしくはなかった。

景気後退でプロジェクトが消滅

『日経エレクトロニクス』2009年6月15日号より一部掲載

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