マイコンのCPUコアは通常,メーカーによって異なる。このため,開発済みのソフトウエアを他社のマイコンに転用する際,ユーザーは手直しを余儀なくされる。英ARM Ltd.が開発したマイコン向け32ビットCPUコア「Cortex-M」シリーズは,この課題の解決を狙う。採用を明らかにしたメーカーは意外に多い。オランダRoyal Philips Electronics社から分離したNXP社,伊仏合弁STMicroelectronics N.V.,東芝,米Luminary Micro社(米Texas Instruments Inc.(TI社)が買収)といった中堅メーカーである。

 中でもNXP社は,ARMマイコンの改良や普及に最も積極的な1社である。「Coretx-M3 Revision2」や「Coretx-M0」を採用したマイコンの市場投入をいち早く発表した。特に後者は,8ビット品並みの低コストと16ビット品並みの低消費電力の両立を売りにした戦略商品だ。NXP社でマイコンを担当する執行役員に,技術トレンドや半導体メーカー再編の影響などを聞いた。 (聞き手は大槻 智洋)

(写真:加藤 康)

─NXP社にとってARMコアを採用するメリットとは何でしょうか。中核回路を他社に委ねることに不安はありませんか。

 我々にとって,ARM社はサプライヤーではありません。パートナーです。Coretx-MシリーズはARM社が自らの資金を投じて開発したものですが,その仕様策定には我々が深く関与しました。ARM社とは長年の信頼関係もあります。我々(当時はPhilips社)が10年前に買収した米VLSI Technology, Inc.は1990年からARMコアを使っています。当社のシステムLSI分野でも重用してきました。

 我々はCPUコアを他社に任せた方が,顧客のためになると判断しました。CPUコアを自ら開発し続けるには莫大な投資が必要だからです。

 マイコンの開発に必要な投資はCPUコアだけではありません。顧客のニーズに応じて,周辺回路をマイコンに集積したり,リファレンス・デザイン(ICやソフトウエア,周辺部品表で構成される量産適用が可能な設計例)を用意したりする必要があるからです。そして顧客が現在,価値を見いだしているのは,CPU コアの性能や機能ではありません。開発効率の向上に直結するリファレンス・デザインの充実度の方です。我々は顧客が求める方に注力したいのです。

『日経エレクトロニクス』2009年6月15日号より一部掲載

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