千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)は,所長である古田貴之の思いが詰まった組織だ。中学生の時に大病を患って,一度は死の淵を見た古田は,社会に役立つロボット技術を未来に残したいと思っている。そして古田と同じような志を持つ,次世代のロボット技術者の育成にも力を注いでいる。

未来ロボティクス学科の「ロボット体験演習」(学部1年生の必修科目)の主な内容
未来ロボティクス学科の「ロボット体験演習」(学部1年生の必修科目)の主な内容

 「それで何をやったと思います? “マネーの虎”ですよ!」

 未来ロボティクス学科で行った授業や生徒たちの様子を語る時,古田貴之は本当に楽しそうだ。

 古田が所長を務めるfuRo(未来ロボット技術研究センター)は千葉工業大学に設立された独立研究機関である。ただし,fuRoは同大学に2006年に新設された未来ロボティクス学科の実習授業などに協力する役割も担っている。新設学科なので既存の形態にとらわれず,自由にカリキュラムや授業内容を決めた。さらに,教える側にも不慣れな面がある。だから,授業の終わりにアンケートを毎回書いてもらい,学生の反応を探った。

 「アンケートには悪口しか書かないこと」と事前に伝えた。「アンケートの目的は,改善すべき個所を知るためのデータ収集」(古田)だからだ。例えば,「スクリーンが見にくかった」という意見があると,即座に大学当局に掛け合って,翌週には座席の再配置と大きなスクリーンの増設をした。fuRoの予算を獲得するとき以上の熱意で,授業の改善に取り組んだ。

 ある時古田は,学生から「秋葉原に行ってみたい」という声を聞く。工業大学に来るような学生でも秋葉原が縁遠い街になっていることに驚き,アンケートで「秋葉原に行きたいか?」と聞いてみた。すると,なんと130人中の114人の学生が「行きたい」と答えた。それならばということで,体験授業として「秋葉原ツアー」を組み込んだ。

 130人を3回に分けて,古田を含めfuRoの研究員8人が手分けして秋葉原を案内した。それまでの授業で学んだいろいろな電子部品について,これはここで売っている,あそこで売っているという具合に案内した。いわゆるジャンク屋と呼ばれるような店にも連れて行った。学生たちは自分が知らない秋葉原のディープな一面に感心しきりだったという。(文中敬称略)

『日経エレクトロニクス』2009年6月1日号より一部掲載

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