音楽CDのタイトル情報などの「メタデータ」を提供するサービス「CDDB」で知られるGracenote社。米Apple Inc.の「iTunes」も採用する,最も成功したメタデータ・サービスを運営する同社が次にもくろむのは,動画向けサービスである。インターネット関連機能を中核に据える次世代のAV機器向けに,メタデータ(コンテンツに関する情報)やレコメンド(推薦)情報を提供することを狙う。Gracenote 社の技術面を統括するRoberts氏は,その鍵となる技術は「電子指紋」であると説く。(聞き手はPhil Keys)

(写真:林 幸一郎)

─約1年前の2008年4月に,ソニーの米国法人がGracenote社を買収すると発表した時はかなり驚きました。買収によって何が変わりましたか。

 買収後もGracenote社は独立した会社だ。ソニーは我々をそういう存在にしておきたいのだと思う。ソニーでは,いろいろな部門がそれぞれインターネット・サービスに取り組んでおり,全体の統一がいまひとつだ。そこに「手を打つ」必要があったのだろうと思う。

 我々はソニーのいかなる部門からも束縛を受けてないから,それぞれのサービスにとって最も効果的な支援が可能になる。我々はこれまでも,ソニーの音楽部門や映画部門を含むエンターテインメント産業と親しかった。今は,「プレイステーション 3」(PS3)を使ってゲームの世界で何ができるかを考えている。

 買収のメリットは我々にもある。ベンチャー企業が上場するときは,ウォール街のために利益を決算書に載せる必要がある。ソニーに買収されたことで我々は利益を,技術やビジネスの開発に使える。

 実際,我々は前年より30%も人員を増やし,動画向けの技術開発を加速した。動画は家電のメーカーにとって,とても重要だからだ。既に提供中の音声向け電子指紋サービスも強化した。例えばApple社の「Genius」が使っており,今は同時に数十億の照合処理をこなせる。

 ソニーの一部であることで,業界で一目置かれるようにもなった。例えば,世界標準に口を出せるようになった。実際私は,DRMを相互運用するための標準を策定する団体DECE(Digital Entertainment Content Ecosystem)にかかわっている。

 ソニーとの関連が深くなって,Blu-ray Disc(BD)にネットワーク機能を組み合わせる「BD-Live」の現状をよく知るようになった。BD-LiveはBDコンテンツごとに,異なるサービスを提供できるため,様々な試みが行われて,今とても面白い状況になっている。テレビを含む動画全部にも,同じような状況が起きるような標準規格を今後用意すると良いと思う。

『日経エレクトロニクス』2009年6月1日号より一部掲載

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