インターネットは魅力的だ。技術やサービスの進化のスピードは非常に速いし,膨大な量のコンテンツもある。家電機器の設計者なら誰しも,インターネットに未来を感じているはずだ。しかし,現実はそう甘くない。家電という専用機とインターネットの相性は必ずしも良くないからである。

 インターネットに対応した家電を使ったことがある読者なら,こんなエラー・メッセージに遭遇したことがあるだろう。「このプラグインはサポートされていません」「このコンテンツは表示できません」…。そう,パソコンからだと「何でもあり」だったインターネットが,家電からでは制約だらけになってしまう。これは家電の機能が固定され,基本的に後から機能を追加できないからである。例えば,テレビで米Google Inc.の動画サービス「YouTube」を視聴できるようにするのはもはや難しくないが,次から次へと誕生する最新の動画配信サービスに対応するのは容易ではない。

 インターネットの魅力を生かすには,「やわらかい家電」への進化が不可欠だ。インターネットで次々に生まれる新しいサービスを利用するためのソフトウエアを,柔軟に組み込むことができる家電である。これを実現するための技術は,もうそろっている。

『日経エレクトロニクス』2009年6月1日号より一部掲載

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第1部<決断>
インターネットの変化に追随
ソフト更新で新サービスに対応

家電はこれまで,機能を固定することによって安定性や安全性を確保してきた。しかしそれでは,変化の激しいインターネットとの融合は難しい。インターネットの変化に追随するには,家電機器にもパソコンのような柔軟性が求められる。

変化の激しいインターネットと変化の少ない家電

 「インターネット・サービスと家電の融合」─。この言葉はもはや言い古された印象すらあるが,まだ成功例と言えるものは少ない。現在はその萌芽が見え始めた段階にある。

 パソコン以外では,携帯電話機がインターネット端末としての地位を確立している。それに続こうと試行錯誤しているのがテレビだ。パナソニックが2008 年に米国で発売した「VIERA PZ850」は,米Google Inc.の動画配信サービス「YouTube」を視聴する仕組みを備えた。日本ではテレビ向けのインターネット・サービス「アクトビラ」に対応した製品が増えてきた。デジタル・カメラやデジタル・フォトフレームにも,インターネット接続機能を備えたものがある。

 ただ,こうしたインターネットに対応した家電が,多くのユーザーに受け入れられているとは言い難い。提供しているインターネットの利用体験が,パソコンと比べて乏しいのが大きな原因である。具体的には,パソコンと違って,閲覧できるWebサイトに限りがあったり,サイトの閲覧に時間がかかったりするためだ。

『日経エレクトロニクス』2009年6月1日号より一部掲載

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第2部<見極め>
「やわらかさ」への一歩
先行するAdobe,追うMS

やわらかい家電の中核技術は「RIA」である。RIAを提供する企業で,最も積極的に動いているのはAdobe社。携帯電話機やテレビなどパソコン以外の機器に普及しようと,攻勢をかけている。機器メーカーにとってRIA 技術の選択は,やわらかい家電で成功するための第一歩になる。

Open Screen Project(OSP)の参加メンバー(2009年4月時点)

 「今後は,さまざまな機器で共通したFlash Playerが動作するようになる。異なる種類のFlashが混在している今の状況は,劇的に改善するだろう」。米Adobe Systems Inc.,Partner Development and Technology Strategy Platform Business UnitのDirectorであるAnup Murarka氏は,自信満々に語る。

 インターネットと家電の融合において,Adobe社は今,最も注目すべきプレーヤーの1社である。同社はパソコンで約99%(Jストリームによる2009 年5月の調査結果)の普及率を誇るWebコンテンツの実行環境「Adobe Flash Player」を,携帯電話機やテレビ,セットトップ・ボックス(STB)などのさまざまな家電に実装しようともくろんでいる。同社はこれを「マルチ・スクリーン」と呼ぶ。

 Adobe社の戦略の背景には,パソコンとは比べものにならないほど大きい,インターネットと融合した将来の家電市場がある。その大市場でいち早く,パソコンと同じようなデ・ファクト・スタンダードの地位を築こうというわけだ。

『日経エレクトロニクス』2009年6月1日号より一部掲載

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