アイデアをコンピュータ上で確かなものにしてから,製品に盛り込む。本誌が主催したセミナー「デジタルものづくり2009」では,製品の商品力向上にIT活用を直結させている事例が多く報告された。「ITは開発の効率化には役立つが,商品力向上とはちょっと別の話」という見方が過去には根強かったが,もはやそうした見方こそが時代遅れになりつつある。

 開発する製品の商品力を具体的に向上させる手段として,ITが扱われるようになってきている。3次元CADをはじめとする設計開発システムでは,開発期間の短縮や,プロセス改革を目的とすることが多い。しかし,それは手段として非常に重要ではあるが,最終目的はあくまで商品力の高い「もの」を造ることだ。

 本誌が主催したセミナー「デジタルものづくり2009」(2009年4月7日開催)では,設計現場でのIT活用に積極的なメーカーが講演。商品力強化にITが直接役立っていることをうかがわせる内容が目立っていた。

【日産自動車】安全,環境性能の確保に貢献

 日産自動車は,自動車の商品力を左右する重点項目として,安全,環境,基本性能(ダイナミック・パフォーマンス)の三つを挙げる。それぞれについて,最近では詳細にCAEによる解析を実行し,目標性能を得ている。

 安全に関するCAEの役割は,2000年代初めまでは衝突による車体構造材の変形を把握することだった。それが最近では,ドライバーが安全であるかどうかの解析まで担うようになってきている。車体の変形を把握するための構造解析と,エアバッグの動きやドライバー自体の動きの解析などを連携させられるようになってきたためだ(図)。ドライバーが負う傷害のレベルの低減に活用している。

図●側面衝突のシミュレーション
車体(a)とエアバッグ(b)相互の解析を連携させられるようになってきている。「安全」「環境対応」「基本性能」など自動車の商品力を向上させるために,解析計算を活用するケースが増加している(日産自動車統合CAE部主担の大林和弘氏の講演資料から)。

〔以下,日経ものづくり2009年6月号に掲載〕