欧州ジャーナリストの視点
フリーランス・ジャーナリスト Ian Adcock氏
英国在住。『What Car』『Autocar』『Motor』などの自動車専門誌の編集者を経て、1980年からフリーに。自動車技術専門誌の『European Automotive Design』誌に寄稿するなど技術にも詳しい。

 これからの6~10年間で、欧州の自動車産業におけるディーゼルエンジンの動向は大きく変化するだろう。ドイツOpel社、フランスPeugeot-Citroenグループ、フランスRenault社、英Jaguar-LandRover社などの完成車メーカー各社は、ショールームに顧客を呼び戻すために懸命な努力を重ねている。各社はそれぞれの国の政府の援助を請いながら持ちこたえている間にも、2014年9月に施行される予定のEuro6排ガス規制をクリアするという困難な仕事に取り組まなくてはならない。
 Euro6規制は、Euro5規制と比べるとPM(粒子状物質)の規制値は0.005g/kmで同じだが、NOx(窒素酸化物)の規制値は0.08g/kmと、約56%削減しなければならない。この規制を達成するには、すべてのディーゼル車でNOx吸蔵還元触媒やSCR(選択還元触媒)システムが必要になるだろう。
 ガソリン車より約1000ユーロ(1ユーロ=132円換算で13万2000円)高いにもかかわらず、効率の高さと、それによりもたらされる低いランニングコストによって、ディーゼル車は2007年に欧州市場で新車の53%以上を占めた。
 しかし、Euro6は、この状況を大きく変える可能性がある。SCRなどが必須になれば、車両価格はさらに1000ユーロ以上上昇することになり、燃費におけるメリットがその分侵食されることになるからだ。このため、米Ford Motor社などのメーカーは、排気量を小さくし、ターボチャージャを取り付けたガソリン直噴エンジンに傾斜しつつある。

以下,『日経Automotive Technology』2009年7月号に掲載