Liイオン2次電池は自動車用の電池として本命である。しかし、エネルギ密度はガソリンとは比べものにならないほど小さい。破壊すれば、燃える可能性も否定できない。こうした問題を解決するため「Liイオン2次電池の次」を模索する動きは既に始まっている。電解液の代わりに塩や固体の電解質を使って有機溶媒をなくす、Liイオンの代わりに金属Liを使うなど、まったく動作原理の違う新しい電池だ。

 質量エネルギ密度は現状のLiイオン2次電池の約7倍、コストは1/40─経済産業省が打ち出した電気自動車(EV)用電池の性能目標である。
 経済産業省の研究会は、報告書「次世代自動車用電池の将来に向けた提言」で、2030年を想定してこの目標を掲げた。発表は2006年8月だから、既に3年がたったが、現在なお、ロードマップとして重視されている。
 確かに「7倍」は必要だろう。2009年に登場するというEVの航続距離は三菱自動車の「i MiEV」が160km、富士重工業の「スバル プラグイン ステラ」が80km。「都市内など、使い方を選べば」という説明は、導入を始める2009年現在ならば説得力がある。しかしガソリン車全体を置き換えることを視野に入れる将来は、明らかに力不足だ。

「7倍」の電池を実現するために

 「7倍」の電池は恐らく今のLiイオン2次電池ではない。LiC6(リチウム吸蔵黒鉛)の負極、LiCoO2(コバルト酸リチウム)やLiMn2O4(マンガン酸リチウム)などの正極、そして有機溶媒の電解質という“3点セット”を使う限り、どんなに改良を重ねても、物性に縛られる。それぞれに理論限界があり、大幅な向上は望めない。
 この壁を突破しようと、Liイオン2次電池の限界を超える電池の研究が進んでいる。3点セットの一角を崩し、大幅な向上を目指す。具体的にはイオン液体を使ったLiイオン2次電池、全固体型のLiイオン2次電池、さらにはLi-空気電池などである。
 今のところ、こうした電池の研究を表明しているのは大阪府立大学、関西大学、産業技術総合研究所、電力中央研究所などの研究機関。メーカーは主役ではない。
 それでもこれら研究機関に声をかけてくる自動車メーカーは多いという。トヨタ自動車は既に大阪府大と共同研究に着手したことを明らかにしている。 現在のLiイオン2次電池で諸悪の根源は電解質に使う有機溶媒である。燃えるし、漏れる。Li自身も、燃えればもちろん危険なのだが、大きな事故に発展する可能性があるのは有機溶媒の方である。
 さらに、溶媒がある分だけ、電解質を“薄めて”しまう。仕事をするのはインだから、余計な溶媒は仕事の邪魔、これが性能の足を引っ張り、「7倍」を難しくする。

イオン液体で電池を動作

 有機溶媒をなくすための第1の道は、まず電解質をイオン液体にすることである。関西大学化学生命工学部化学・物質工学科教授の石川正司氏は、イオン液体をLiイオン2次電池に応用しようという研究を進めている。今までは電解質などそれぞれの要素ごとに研究、発表していたが、第一工業製薬、エレクセルと組んで正極を含めた各要素を組み合わせ、電池としての動作を確認した。イオン液体を使った電池の動作に関する初めての発表といえる。
 イオン液体というのは常温で液相の塩、言い換えると融点の低い塩である(図)。100 %イオンになるため、電解質としてよく働く。

以下,『日経Automotive Technology』2009年7月号に掲載
図 イオン液体
常温でも粘性の低い普通の液体、火を近づけても燃えない。