世の中に安全と安心を広めていきたい,中小企業が元気になるケーススタディーを示したい─。その二つの思いからスタートした偽札識別器は,アイ・シー・アイデザイン研究所(ICIデザイン研究所,本社大阪府守口市)にとって初めての独自ブランド製品だった。開発も終了し,いよいよ本格的な販売を開始しようとしたその時,同社代表取締役社長の飯田吉秋の元へ驚くべき事実が知らされた。
写真:田中雅也
今思えばその予兆はあったのかもしれない。しかし,まさかこんなことになるとは…。初めての自社ブランド製品が陥った結末に,ICIデザイン研究所の飯田吉秋は唖然(あぜん)とするほかなかった。
突然の連絡不能
2006年6月,飯田は偽札識別器を前月に発売し,さあこれから事業拡大していくぞと希望に胸を膨らませていた。そんなある日,飯田の元へ一本の電話がかかってくる。
「ああ,どうも飯田さん。実は,小耳に挟んだんだけど,例の会社,やはりかなり悪いようですよ」
それは,飯田にとっては驚愕(きょうがく)の知らせだった。言葉を失う飯田の耳元で,電話の主の声が響き続ける。だが,飯田の意識にそれは届かない。かろうじて認識できたのは「急いだ方がいい」のひと言だった。
“例の会社”とは,偽札識別器の製造と販売を依頼していた国内の家庭用計測機器メーカーだ。電話で伝えられたのは,その会社の経営状態が悪化してきているという情報だった。
〔以下,日経ものづくり2009年5月号に掲載〕