「勝つ設計」は,日本のVEの第一人者である佐藤嘉彦氏のコラム。ただ安さばかりを求めて技術を流出し,競争力や創造力を失った日本。管理技術がこれまでの成長を支えてきたという教訓を忘れた製造業。こうした現状を打破し,再び栄光をつかむための製品開発の在り方を考える。
勝つ目標の4カ条
目標は漫然と決めてはならない。勝つ目標の4カ条を守る。

 前号の「勝つ設計」では,第1回にもかかわらず,設計の具体的な内容にまで入り込んでしまった。それは,このコラムのおおよそのイメージをつかんでもうらためだった。今回からは,ものづくりの手順,具体的にはビジネスプラン,商品企画,研究開発,設計,生産準備,量産というプロセスに沿って,優勝劣敗の「勝」を論じていきたい。

 まずは,ビジネスを展開していく上で真っ先にやるべきこと,目標設定について,だ。

勝てない目標?

 目標を持つと制約が増える。その結果,プロジェクトを推進するモチベーションが下がるといったことをよく聞く。そんなときには決まって,「おれは自由に,良いものづくりをしたい」とか,「制約を受けて良いものなどできるはずがない」とか,自分の思い入れを主張する技術者が現れる。しかしこの制約,すなわち目標が経営の裏付けとなって,会社を,仕事の仕組みを,人材を,そして商品を強くしていくのだ。まず,この点を理解してほしい。

 目標は,ビジネスを具体的にスタートさせるに当たって最初の決定事項となる。こんな商品を造りたい,こんな機能を持たせたい,こんな客層を取り込みたいなどと計画を詰めていく過程で,ビジネス規模や販売数量,売上額などを決めていく。その具体的な数字こそが「目標」にほかならない。

 その目標がCompetitor(競争相手)より勝っていなければ,商品は売れない。商品には個人の思い入れが大事だが,勝たなければ意味がない。前回記した優勝劣敗の「敗」に甘んじ,淘汰されてしまうのだ。どのような目標を,どのようなレベルで持つか,この点が「勝つ目標」か否かの分かれ目。趣味の世界でない以上,客観的に勝つことが何より重要になる。

 とはいえ,言葉では目標を重視しながら,実際には軽視している企業の多いこと。そんな企業ではおおかた,「勝てない目標」になっている。中身も甘ければ管理も甘く,最後は何とか繕って「目標達成」などと辻褄(つじつま)を合わせている。しかし,そんな「軽視される目標」など目標とはいえない。もっと先まで見据えたものでなければならないのだ。

*)Competitorとは,直接の競合相手だけではない。商品が異なれど,機械加工なり鋳造なり,同じような加工をなりわいとするメーカーも一種のCompetitorである。実際,同業種の相手に負けたら,それは恥ずかしいという気持ちになるでしょう?

〔以下,日経ものづくり2009年5月号に掲載〕

佐藤嘉彦(さとう・よしひこ)
VPM技術研究所 所長
1944年生まれ。1963年に,いすゞ自動車入社。原価企画・管理担当部長や原価技術推進部長などを歴任し,同社の原価改善を推し進める。その間に,いすゞ(佐藤)式テアダウン法を確立し,日本のテアダウンの礎を築く。1988年に米国VE協会(SAVE)より日本の自動車業界で最初のCVS(Certifi ed Value Specialist)に認定,1995年には日本人初のSAVE Fellowになるなど,日本におけるVE,テアダウンの第一人者。1999年に同社を退職し,VPM技術研究所所長に就任。コンサルタントとして,今も,ものづくりの現場を回り続ける。