幼児2人を自転車に乗せて走る「3人乗り」を許可するか否か。この1年強,多くのメディアがこの問題を取り上げ,幼子を抱える母親たちを中心に活発な議論が交わされてきた。そんな中,業界団体は急きょ,安全性の高い3人乗り自転車開発プロジェクトを立ち上げた。手を挙げたのは,11社1個人の技術者たちである。

図●試作車の車輪数別内訳と特徴
自転車産業振興協会が実施した助成事業「平成20年度新商品・新技術研究開発」の「安全性に配慮した幼児2人同乗用自転車の試作」では,申し込みのあった14件のうち12件(うち1件は3タイプを提案したため計14台だが,ここでは幼児乗せ専用タイプを掲載)が採用された。採用された試作車を車輪数別に分け,それぞれの設計上の特徴を記した。試作車はすべて2009年2月末に完成。( )内は試作車の長さ×幅×高さ(最大時)で,単位はmm。

 設計テーマが同じでも,バラエティーに富んだ「結論」は導き出せる--。自転車産業振興協会が助成事業として実施した「3人乗り自転車の試作車開発」は,そんな当たり前だが忘れがちな事実を思い出させてくれる。2008年5月30日の締め切りまでに同協会に集まった申請は14件。うち12件(1件は3タイプのため計14台)が助成金の対象となり,2009年2月末までにすべての試作車が出そろった。テーマが同じでも,完成した試作車の種類は「2輪」「前2輪の3輪」「後ろ2輪の3輪」「補助輪付きの4輪」と,実にさまざまだった(図)。

 事の発端は,警察庁のある発表だった。もともと幼児2人を乗せて自転車を走らせることは,安全上の問題から各都道府県公安委員会規則で禁止されていた。しかし,実際には順守されていないことから,警察庁は2007年末,3人乗りの禁止をあらためて自転車規則に明記する方針を明らかにした。これに異議を唱えたのが,複数の幼児を持つ母親たち。「それではどうやって子供を保育園に連れて行けばいいのか」「少子化対策とは口ばかり」と反発の声があちこちから噴出した。「安全性に配慮した3人乗り自転車を開発する」という今回の助成事業は,これらの声に応えようと警察庁が自転車業界に働き掛け,実現したものだった。

*)3人乗り自転車の試作車開発 自転車産業振興協会が,経済産業省や自転車関係団体と連携し「,平成20年度新商品・新技術研究開発」として実施したもの。競輪とオートレースの振興法人であるJKAの「競輪の補助金」を受けている。正式名称を「安全性に配慮した幼児2人同乗用自転車の試作」という。

〔以下,日経ものづくり2009年5月号に掲載〕