写真:栗原克己

 産業人の立場から教育の現状を見ますと,小学生や中学生の理科離れというのは,本当に深刻な問題です。高校生が大学を受験する際も,理科系の科目を取らなくなった。なんと,高校で物理を全く学ばないで卒業する人が,もう半分以上に達しているそうです。

 工学部の志望者はどんどん減っています。特に電気・電子,機械が弱くなっていて,定員割れの学科も多い。人気があるのは,遺伝子組み換えといった先端分野の生物系など,一部にすぎません。大学側も必死です。学生の人気や国の予算を取るためなのか,例えば金属工学科や造船工学科,化学工学科といった学科は“斜陽”だからと,どんどんなくしている。それで生物とかITとか環境とか,時代の花形的なところを追っかけていく。

 それも必要なのですが,大学は産業の基幹人材を育てるところです。日本の製造業を維持するには,機械や電気・電子,金属・冶金(やきん)などの基幹技術の専門家が絶対に必要です。プラント設計には化学工学が必須ですが,化学工学科のある大学だって,既に数えるほどしかない。基幹の学科や大学院に良い学生が来ないのは,大問題です。
〔以下,日経ものづくり2009年5月号に掲載〕(聞き手は本誌編集長 原田 衛)

榊原定征(さかきばら・さだゆき)
東レ 代表取締役社長 CEO&COO
1943年神奈川県生まれ。1965年名古屋大学工学部応用化学科卒業。1967年同大学大学院の修士課程(応用化学専攻)を修了,同年に東洋レーヨン(現・東レ)入社,中央研究所に配属される。1974年11月米国ニューヨーク市に駐在。1989年経営企画室部長。1998年常務取締役。1999年専務取締役。2001年に代表取締役副社長に就任,人事全般を担当し,総合企画室長,技術センター所長を兼ねる。2002年代表取締役社長兼COO。2004年から現職。2007年5月に日本経済団体連合会副会長,同連合会産業技術委員会委員長に就任,2008年1月からは内閣府総合科学技術会議議員を務めるなど,社外でも活躍する。