2002年,三洋電機は小型・軽量の動画デジカメ「Xacti DMX-C1」の開発に着手する。前機種の販売が振るわなかったことから,開発チームは窮地に追い込まれたものの,カンパニー・トップが推進する横断化プロジェクトを利用することで開発を継続した。しかし,苦心の末に生み出したグリップ型のデザインは,回路設計者に不評だった。

デザインした外形寸法に収めるため,新たに小型部品を開発した。
デザインした外形寸法に収めるため,新たに小型部品を開発した。

「これは無理だ」─。

 高橋聖夫は,「ラベンダー」のグリップ型デザインを見た瞬間,そう直感した。ラベンダーとは,三洋電機の動画デジカメ「Xacti DMX-C1」の開発名である。その回路設計を任されたのが,高橋(現・デジタルシステムカンパニー DI事業部 設計一部 回路設計課担当課長)だった。

 まず,レンズ部とグリップ部を斜めに配置した拳銃のような形状が問題だった。筐体内部にデッド・スペースが生じやすく,長方形の一般的なデジタル・カメラに比べて実装密度を高めにくい。しかも,液晶モニターは2軸のヒンジで折り畳む構造である。その分,メイン基板を搭載する本体側の空間は削られてしまう。そこに発熱量の大きいMPEG-4チップを載せることは,かなり困難と思われた。

 この無謀なデザインを考案したのは,カンパニー・トップが推進する横断化プロジェクトのチームである。このプロジェクトでは,自由な発想を阻害しないように,チームから回路設計者を外したという経緯があった。自分の知らないところで作られたデザインを突然押し付けられた高橋に,反感がなかったと言えばウソになる。

 高橋は,感情を排して問題点を具体的に示すため,CADを使って筐体内部に部品を仮配置した図を作成した。図面を見れば,無理は明白だった。メイン基板やCCD基板,液晶モニター,ヒンジ,Liイオン2次電池といった主要部品が,すべて筐体からはみ出していたからである。特に,メイン基板は筐体から 20mmも飛び出していた。高橋はこの図面を携えて,横断化プロジェクト・チームのリーダーである重田喜孝(現・マーケティング本部アドバンストデザインセンター デジタルシステムデザイン部 部長)に直談判に行く。デザイン変更を要請するためである。

 しかし,図面を見ても重田は動じなかった。それどころか,静かにこう言った。「このデザインでなければ,商品化する意味がないんですよ」─。(文中敬称略)

『日経エレクトロニクス』2009年4月20日号より一部掲載

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