2012年に256Gバイト品が50米ドルで手に入る─。NANDフラッシュ・メモリを用いたストレージ装置であるSSD(solid state drive)について,一部の調査機関などの間で,こうした予測が出始めている。ノート・パソコンや車載機器,産業機器など,多くの電子機器で当面はほぼ十分といえる256Gバイトのストレージを,HDDと同程度の価格で実現できる。
 メモリ・メーカーが掲げる計画と,技術の先行きから考えると,この仮定が現実のものとなる可能性は低くない。SSDの躍進の原動力となってきた低コスト化は今後,少なくとも2年間は,これまでとほぼ遜色ないペースで進んでいくとみられる。

 256Gバイト品がHDDとほぼ同等の価格で入手できるようになれば,機器メーカーはあれこれ考えずに,HDDをスムーズにSSDに置き換えられるのか─。

 事は,そう単純ではない。低価格化と同時に,NANDフラッシュ・メモリの品質も低下していくからだ。NANDフラッシュ・メモリの低価格化の原動力である微細化,および多値化を進めれば進めるほど,データの書き換え可能回数は減り,データ保持時間は短くなる。

 機器メーカーは,開発対象の機器において,ストレージにどういうアクセスをするのか,使用する環境はどうか,といった条件を綿密に考慮し,最適なSSDを選定する必要に迫られる。

『日経エレクトロニクス』2009年4月20日号より一部掲載

第1部<期待と不安>
HDD代替にSSDが挑戦
低コスト化に伴う品質の壁

NANDフラッシュ・メモリを利用したストレージ装置「SSD」の機器への搭載が始まった。半導体技術の進化に伴う価格の下落が,機器搭載の広がりを後押ししそうだ。その半面,機器メーカーは品質低下という課題に直面する。

SSDの搭載が始まった

 中国Baidu,Inc.(百度)が手掛ける検索サービス「Baidu.com」。米comScore, Inc.によると,検索回数は世界3位だ。中国でのユニーク・ユーザー数は2億人以上に達する。日本でも2008年1月に検索サービス「Baidu.jp」を開始するなど,拡大路線を突き進む。このように,数多くのユーザーを獲得しているBaidu.comの特徴の一つが検索速度の高さである。

 Baidu.comの検索速度向上のカギを握る部品が,SSD(solid state drive)である。SSDはNANDフラッシュ・メモリを記憶媒体として使い,HDDと同様のインタフェースを備えたストレージ装置。HDDのようにモータやヘッド,アームといった機構部品がなく,データへのアクセス性能が高い。2009年現在,同社は「検索サーバー全体の数十%,Web検索向けサーバー機能に限定すると100%をSSDに切り替えた」(バイドゥ マーケティング部 部長の添田武人氏)という。

 Baidu社の決断は氷山の一角にすぎない。ここにきて,データ・センターや,サーバー機,ディスク・アレイ,産業機器など,これまでHDDの搭載が当たり前と考えられてきた機器で,続々とSSDの搭載が進み始めているのである。これらの機器に共通するのは,SSDを搭載することで,性能向上や低消費電力化,低コスト化など,機器の付加価値の向上につなげているところである。

『日経エレクトロニクス』2009年4月20日号より一部掲載

第2部<解決策>
制御LSI,OS,メモリ
総力を結集して信頼性向上へ

微細化や超多値化とともに低下し続けるNANDフラッシュ・メモリの品質。問題解決に向けて,OS,コントローラLSI,キャッシュ・メモリ,NANDフラッシュ・メモリなどSSDにかかわるすべての階層のメーカーが動きだしている。

3ビット/セル,4ビット/セルが本格的な流れに

 「30nm世代や2Xnm世代に微細化したNANDフラッシュ・メモリ,および3ビット/セル品や4ビット/セル品の使いこなしは容易ではない。どこがいち早く使いこなせるか,その勝負は既に始まっている」。大手SSD用コントローラLSIメーカーの技術開発責任者は,こう意気込む。

 コントローラLSIやOSなどの工夫による,NANDフラッシュ・メモリの使いこなしの巧拙は,SSDの信頼性を高める上で,ますます重要になっている。

 実際,2004~2005年に量産が始まった90nm世代品までは,機器メーカー側にNANDフラッシュ・メモリの信頼性に疑問を持つ声は少なかった。書き換え可能回数が10万回,データ保持時間が10年という仕様に対して,大手コントローラLSIメーカーの技術者はこう言う。「製造技術によるマージン(プロセス・マージン)を大きく確保できていた。すなわち,プロセスによる実力が仕様を大きく上回っていた。この時点では,コントローラLSIがNANDフラッシュ・メモリに助けられていた」。しかし,その後,70nm世代以降への微細化とともに,徐々にNANDフラッシュ・メモリのプロセス・マージンが減っていく。NANDフラッシュ・メモリの品質が落ち始めたのだ。

『日経エレクトロニクス』2009年4月20日号より一部掲載

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