出典:日経エレクトロニクス,2005年5月23日号,pp.104-109(記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

日経エレクトロニクス創刊900号特集では,Siを用いた半導体技術を補完する存在として,有機エレクトロニクスが今後有望と主張した。まずディスプレイ向けで製造技術や信頼性を改良し,その後メモリやマイコンなどの分野にも進出するとみた。そのための模索は,現在も続いている。(2009/05/15)

現在,有機ELなどディスプレイ向け技術として注目を浴びる有機エレクトロニクス。しかし,2010年以降を想定すると,必ずしもディスプレイ分野に限らず,メモリやマイコン,太陽電池,センサなどさまざまな部品に広がりそうだ。まずはディスプレイで製造技術や信頼性確保技術を培い,その後は,Si系半導体の集積度に代わる新たな成長軸を確立する。さまざまな分野の技術者を引き付ける有機版「ムーアの法則」を見つけられれば,Si系半導体に匹敵するエレクトロニクス産業の柱として期待できる。

 「A4判1枚のペラペラの紙一面を,有機メモリ素子で埋め尽くす。そんな発想があってもいい。Si系半導体でメモリやマイクロプロセサなどの面積を縮小する必要があったのは,集積度を高めた方が安く製造できるというコスト上の理由が主体。別の手段で低コスト化のトレンドを維持できるのであれば,Si系半導体よりずっと面積が大きい回路があってもいいはず」――有機エレクトロニクスの研究開発を進めるセイコーエプソン 研究開発本部テクノロジープラットフォーム研究所 理事 研究所長の下田達也氏は,有機材料を使ったエレクトロニクスの将来をこう予測する。

 新しい材料を使ったデバイスを,Si系半導体に次ぐエレクトロニクス産業の柱として確立しようとする動きが活発になってきた。分子サイズの素子を利用する分子エレクトロニクス,電子のスピンを利用したスピントロニクスなど,多くのアイデアが提案されている。中でも有望なのが,有機材料を使ったエレクトロニクス素子だ注1)

注1)有機エレクトロニクス素子というと,カーボン・ナノチューブのように炭素(C)を含む材料を利用する素子すべてを指すとする見方もあるが,今回の記事では,有機分子が多数集合し,その薄膜や界面における電気的物性を用いる素子を対象とした。

 有機エレクトロニクス素子には,市場立ち上げの起爆剤になりそうな用途がある。プラスチック基板上に形成した有機ELパネルや電子ペーパーなどのディスプレイだ。まずこの分野で当面の課題である製造技術向上や信頼性確保を達成できそうだ。

 こうした当初の用途で実用化が軌道に乗れば,ディスプレイ以外の部品の製造にも応用が広がる。各種のセンサや太陽電池など候補は幾つもある。いずれはメモリやマイコンまですそ野を広げる可能性がある。有機エレクトロニクス素子がどこまで広がるかを左右するカギは,Si系半導体における「ムーアの法則」のような,技術と産業規模の好循環を生む仕組みがあるかどうかだろう。研究者からは,早くも有機版「ムーアの法則」を予測する声が上がっている。