出典:日経エレクトロニクス,2001年7月16日号,pp.91-93(記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

2001年7月の創刊800号特集は,801号との2号連続特集として,「ユビキタス・ネットワーク」を取り上げた。以下は,その冒頭を飾った2ページ。現実世界にあまねく広まったネットワークが仮想世界との境目をなくし,人類は新たな段階へ進化すると主張した。(2009/05/08)

通信ネットワーク,そして情報通信機器の進化が,現実世界とネットワーク上の仮想世界の境界を取り外し始めた。生活者は,時と場所を選ばずに高速なネットワークに接続できる「ユビキタス」なネットワーク環境(ユビキタス・ネット)に身を置き,それを受容する。ネットワークは,生活者の身の回りを常に取り巻きながら,仮想世界という新しい生活の場を作り出していくだろう。この環境の変化をキッカケに,生活者は常に高速なネットワークにつながった人類「ホモ・ユビキタス」へと進化を始める。

イラスト:シギハラ・サトシ

仮想世界へのドアが開く

 現実世界と仮想世界をつなぐドア。その役割を担うのが情報通信機器だ。いつでもどこでも生活者の周りに存在し,現実社会で暮らす生活者を仮想世界へと誘う。このドアの登場で,時間的にも空間的にも,現実世界は仮想世界と地続きになり,生活者が暮らす場は広がる。おしゃべり,ショッピング,エンターテインメント,旅,ビジネス,学習,…。仮想世界で経験する出来事と,現実世界の出来事は,互いに影響を及ぼし合い,新しい生活スタイルを創出するだろう。

 そのとき,ユビキタス・ネットのノードになるのは,情報通信機器であり,それを構成する部品であり,生活者自身でもある。ネットワークは,ヒトとヒト,ヒトとモノ,モノとモノを結合するおびただしい数のパイプを作り出しながら,多くのヒトやモノを結合していく。生活者は,数多くのパイプを通じて自ら仮想世界に情報を発信するようになる。

 発信する情報は多彩だ。生活者が見たモノであるかもしれないし,聞いたコトであるかもしれない。自分の振る舞いや,記憶,周囲の環境,果ては人生さえも仮想世界へと送り出していく可能性があってもおかしくないのだ。

生み出される「知恵」

 それは,さながら巨大な「脳」の出現なのかもしれない。有機的につながった多くの情報通信機器は,協調動作しながら,生活者が発した情報を処理することになる。あるときは自らの手元で,あるときは多くの機器に処理を分散させることによって,膨大な数の情報処理をこなしていく。「どこかのだれかが自分の代わりに情報を手に入れ,そして,別のだれかがその情報を自分のために処理してくれる」。この環境が,生活の中で生じる多くの楽しみや問題,悩みの解決手段を提供することになる。