従業員わずか4人のデザイン事務所,アイ・シー・アイデザイン研究所(ICIデザイン研究所)が開発したペットボトル用キャップ「Kiss II」が,発売後数日で売り切れるほどのヒットを飛ばしている。だが,小さな企業が独自のヒット商品を生み出すまでには数々の苦難があった。その原動力となったのが,社長の飯田が胸に抱き続けてきた二つの思いだった。

飯田吉秋 アイ・シー・アイデザイン研究所代表取締役社長  写真:直江竜也

 成人の日を含めた3連休の初日となった2009年1月10日土曜日。大阪府守口市にあるICIデザイン研究所では,朝から引っ切りなしに電話が鳴り続けていた。

「はい,ICIデザイン研究所です」
「ええ,そうです。ペットボトルの飲み口にふたをするように取り付けて使うんです。口を付けて中身の飲み物を飲もうとしない限りは,ペットボトルを倒してもこぼれません」
「価格ですか? 1個778円で,3個までなら送料120円でお送りいたします」

 この日は,同社が満を持して発売したペットボトル用の飲み口「Kiss II」の発売日。前日に地元テレビ局で紹介されたこともあり,その問い合わせの電話が殺到していた。

 Kiss IIは,高齢者や障害者が手軽に,そして適切に水分補給することを目標に開発された製品だ。注文を受け付けるWebサイトからの電子メールは,確認するたびに受信数が増えていく。連休最終日の1月12日の昼には,ついに初回生産分が売り切れてしまった。

 Kiss IIは,同社社長の飯田吉秋のある思いを具現化したものだ。個人主義が色濃くなっている現在において,工業デザイナーとして「人に安心や安全を提供できるものを提案したい」。飯田は長らくの間,そうした思いを胸に抱き続けていた。

〔以下,日経ものづくり2009年4月号に掲載〕