小林 春夫
群馬大学大学院 工学研究科

アナログ信号を電圧軸ではなく時間軸で処理する─そんな「時間分解能」型アナログ回路を設計する時代が到来しつつある。この回路は既に実用化されており,研究発表も活発だ。IC/LSIの微細化と低電圧化が進み,電圧振幅を利用した計測/演算/制御が困難になってきたことが背景にある。アナログ回路の新しい潮流について,基本となるTDC(time to digital converter)を中心に回路動作や応用例を解説する。(本誌)

時間分解能型アナログ回路が脚光を浴びるようになった背景

 電圧でアナログ信号をとらえ,演算や制御を行う。こんなことは当たり前で,意識することさえなかった,という人は多いだろう。

 ところが現在,新たなアナログ回路の設計手法が広がりつつある。測定/処理の軸を従来の「電圧軸」ではなく「時間軸」に変更して,アナログ回路設計を行う方法が注目を集めている。

 ここでは,アナログ回路設計のパラダイムを変える「時間分解能」型回路の動作や応用例を,基本から解説していく。後述するように,この回路には特別な製造プロセス技術は不要で,従来の回路と混在させることが容易である。今後,今回の新しい回路が適材適所で着実に利用されていくと考えている。

『日経エレクトロニクス』2009年4月6日号より一部掲載