言葉の説明

 既に本文中で幾つかの用語は説明した。ここでは, 補足的な用語の説明を行う。

故障率(Failure Rate)

 ある時点まで無事故で動作してきた部品などの消耗品が,引き続く単位期間内に故障を起こす割合を言い,人間の死亡率に相当する。実際には,できるだけ短い区間を選び,区間故障率=(その区間の総故障数)/(区間中の総動作時間)として求められる。総動作時間とは,その区間で観測しているすべての部品やユニットについての動作時間の総計値で,デバイス・時間とか,コンポーネント・時間と呼ぶ。故障率の単位は(1/時間),(1/回数)などで、しばしば(1%/103時間)=(10-5/時間)やFIT=(10-9/時間)が使われる。

 故障率は,観測時点(年齢)の関数であり,時間と共に減少傾向を示すDFR(Decreasing Failure Rate)型,一定になるCFR (Constant Failure Rate)型,摩耗などで集中的に故障を発生している時に見られるIFR(Increasing Failure Rate)型の三つの基本的パターンがある。半導体,電子部品では, DFR型になるものが多い。

ワイブル分布

 スウェーデンの機械技術者Weibullの名に因んだ分布。部品や材料の寿命(ttf)や強度に対して,理論式の形で表すと便利である。この一つがワイブル分布である。本文中の式(3)の三つの母数m,η,γは実際のデータから決定する。

 部品中に致命的欠陥が幾つかあって,そのうちの最弱点によって部品の寿命が左右される場合,欠陥の中で一番最初に顕在化する寿命(最小寿命)が部品の寿命となる。このような最小強度、最小寿命,最大欠陥の大きさなどの分布を極値分布と呼んでいる。ワイブルは,このような発想から機械的強度の分布としてワイブル分布を導入した。すなわち理論的にはワイブル分布は極値分布に属している。

 しかし現実には,理論的な意味でこの分布を使用するよりは, ワイブル確率紙を使うと,上記のm,η,γなどの母数を容易に推定できるために,大幅に活用されている。特に形状母数mがm<1ならDFR,m=1ならCFR,m>1ならIFRという故障率のパターンの判別が簡単にできるという利点がある1),10)

加速試験

 英語ではaccelerated testと言う。ある基準状態での寿命(ttf)や故障率を短時間で求めるため,基準状態より厳しい環境,ストレス(温度,電圧など)におき,寿命を短縮させあるいは故障率を拡大した状態で行う試験。次の「Arrheniusの式」で述べるように,寿命短縮の比率を(寿命)加速係数,故障率の増加率を故障率加速係数と言う。

Arrheniusの式

 部品やデバイスの寿命Lや故障率λが温度Tに対して,


あるいは,


という関係にある時,これらをアレニウスの式と言う。この対数ln L 対 1/T,あるいはln λ 対1/Tの直線(図1参照)をアレニウス・プロットと言う1),2),10)

ここで,
T:ケルビン温度,273℃+T℃,
ΔΕ:活性化エネルギー,
k:ボルツマン定数,
である。既に述べた図1の左側の方の直線部分は,式(4)のπTに相当し,ここがアレニウスの式になっている。

品質保証

 消費者の要求する品質が完全に満たされていることを保証するために, メーカーが行う品質管理活動の体系。ここで言う品質とは,広義に信頼性並びにその他の性能などの品質を指すが,狭義に信頼性と品質を区別し,前者を信頼性保証という場合がある(JIS Z 8101品質管理用語参照)。

LTPDとAQL

 共に抜き取り検査において, ロットの品質レベル(不良率)を示す用語である。LTPD は,そのような不良率を持つロットは不合格としたいレベルを示し,このレベルのロットの検査合格率(β)を低く抑え,合格したロットの不良率はLTPDより大きくはないということを信頼水準(Confidence Level,1-β)で保証するようになっている。一方,AQL (Acceptable Quality Level= 合格品質水準)は,合格としてもよいロットの最悪不良率を示し,この不良率を持ったロットは,検査に高い確率で合格するようになっている10)

LTFRとARL

 不良率の代わりに信頼度(故障率で表す)レベルでロットの合否を判定する場合には,AQL,LTPDの代わりにそれぞれARL(Acceptable Reliability Level),LTFR (Lot Tolerance Failure Rate)を使う。すなわちLTPD(不良率)の単位%は,LTFR(故障率)の場合,例えは、%/103時間というような単位になる( 表2参照)。10)

Confidence Level

 日本語では信頼水準と言う。信頼度や故障率をデータから推定する場合に,ある上限値と下限値を見いだし,その上下限値の区間に真の信頼度や故障率が存在する確率を信頼水準(例えは90%)に等しくするような推定法を区間推定と言う。逆に言うと,真の値は推定された上下限値の区間に,確かさ90%で存在するということができる。

 信頼水準は,このような統計的推定の場合に使われるばかりでなく,抜き取り検査(統計的な検定)にも使う。本文の信頼水準とは,こちらの方の意味に使っている。検査して,検査に合格したロットの不良率や故障率が,検査で規定しているLTPD(例えば20%)やLTFR (20%/時間)よりも確かに少ないということを90%の確率で保証できる場合に,信頼水準90%の検査に合格したと呼ぶのである10)