ユーザーにとってもメーカーにとっても,現実にはロットとしての保証,特にロット変動により突然混入する故障の保証が問題になる。各種混入している潜在的故障メカニズムをある試験条件ですべて同一割合だけ加速することは不可能であり,しかも,この欠陥の混入比率が小さい場合には,通常の試験では確率的にもその検出は特に困難になる7)~9)。もともと故障原因となる欠陥は,製造工程,処理などに依存して時系列的に発生しているから,工程中の欠陥発生の情報に応じた適切な加速スクリーニングを実施し,その特定メカニズムの故障率λiの相対比率とその減少の度合いをモニタし式(2)の考え方からλiの和としてデバイスの故障率λを予測するという方向を採らざるを得ない1),3),7)

 また,初期欠陥スクリーニングのためには,米ベル研究所のPeckらの言うように,1eVの活性化エネルギーを持つ母集団故障率(人間で言えは、いわば老人期の寿命部分に対応する)に,%オーダ以下の初期欠陥故障が混入していて,その活性化エネルギーが0.4.eV程度であれば,短時間にそれらを検出,除去するため,高温度(例えば150℃以上),多量サンプル(母集団に対しては非破壊的であれば全数)の加速試験が必要となる9)

ユーザーの望む信頼度データの公表を

 ユーザーの欲しいデータは装置の信頼度予測のための基礎データである。ところが,いざ式(2)による典型的な予測を実行しようとすると,データがない。適当な数値を割り当てても,せいぜい平均的故障率であって,ロット保障にはならないというような悩みがある。このような公式論的故障率の予測ではなく,実際的なFMEA法1),10) (FMEA: Failure Mode and Effects Analysis =部品,デバイスの故障モードが装置にどのような影響を及ぼすかの解析)による予測を実施しようとしても,デバイスの典型的な故障モードとその比率の情報が必要になる。いずれにしても,メーカーが製品を発売した時点で少なくとも故障率のレベル,例えば,10~50FITの間とか,複雑度,主要故障モードの上位三つとその比率などを公表することが可能なら,この悩みは,大いに軽減されよう。

 要するに,ユーザーとメーカー聞の対話の程度がICの信頼性に投影される。皮肉にも信頼性がいつも秘密のベールに覆われてしまうところに,最大のネックがある。英語のConfidentialという言葉の「信頼し合った」,「打ち解けた」という意味が,一転すると「秘密の」というニュアンスに変わるのである。

参考文献
1) 塩見『故障物理入門』,日科技連出版社,1970年.
2) 『日立半導体デバイス信頼性ハンドブック』,1977年3月.
3) Manabe,N.,Niikawa,T.,Kajiyama,M.,Takaide,A. and Goto,T.,“Decreasing Failure Rate Observed in ICs," International Conference on Quality Control Proceedings,D2-08,pp. D2-41-46,Oct.1978.
4) MIL-HDBK-217B,“Reliability Prediction Electronic Equipment,"1976.
5)金親,谷井,和野「高信頼部品の発達」,『電子通信学会誌』,vol. 59,pp . 386-397,1976年4月.
6)塩見「電子部品の信頼性」,『テレビジョン学会誌』, vol. 32,pp. 391-398,1978年5月.
7)真鍋,高出「集積回路の製造工程不良の解析と信頼性保証」,『第6回信頼性・保全性シンポジウム』,pp. 395-402,1976年5月.
8) Umeda,M.,Niitsu,M. and Kato,N.,“The Control of Components to Ensure The Reliability of Electronic Equipment,”International Conference on Quality Control Proceedings,D2-15, pp. D2-77-88,Oct. 1978.
9) Peck,D.S.,“New Concerns about Integrated Circuit Reliability," 16th Annual Proceedings of 1978 International Reliability Physics Symposium,pp. 1-6,Apr.1978.
10)塩見『信頼性工学入門』,丸善,1972年.

〔一般的な参考文献〕
11)「信頼性特集」,『電子通信学会誌』,vol.59,1976年4月.
pp.459-463に川崎義人氏の信頼性に関する図書紹介がある。このほか,参考書に次のようなものがある。
12)原田,二宮『信頼性工学』,養賢堂,1977年.
13)藤木,塩見『エレクトロニクスにおける信頼性』電子通信学会,1978年.
14)高木(監修)『信頼工学講座』(全5巻),東京電機大学出版,1972年.