ICは消耗品的な装置
ICは,装置やシステムにとっては,その構成ユニットとして個別部品と何ら区別することはできないが,それ自体複雑な回路であり,多数の故障メカニズムから構成された消耗品的(修復不可能な)装置とも言える。
ICの信頼性の問題点は,ICメーカーにとっては,ユーザーの要求を満足する信頼性をいかに具体化するかである。一方,ユーザー(装置メーカー)にとっては,いかにして自分の要求通りのものをメーカーに開発させるか,また市販のICが果たしてどれくらい安心して使えるか,装置のMTBFにどれくらいの影響を与えるかを知りたいという点である。例えば,式(2)によって装置のMTBFを予測する場合に,ICのλiはいくらに見積もったらよいかという問題である。
ICの寿命分布および故障率の特徴
ICの故障は,明らかなオーバ・ストレスや人為的エラーによる故障を別にすれば,デバイス設計,材料,工程,処理条件,スクリーニングなどに依存する多数のメカニズムによって生じる。例えば膜界面,配線電極,ボンディング,気密性などに関連した欠陥群の混合という形をとる。しかもこれらによって生じる故障は時間およびストレス依存性を示す1),2)。したがってICの寿命は,設計因子のほか,メーカーの工程管理,スクリーニングの程度などに依存して変わる。
仮に,ICの特定の寿命分布をワイブル分布(『言葉の説明』参照),
で表すものとしよう。ここでmは形状母数,ηは尺度母数,γは位置母数と呼ぶ定数で,寿命データを基に推定される1),10)。
例えば,ICのボンディングの熱疲労やマイグレーションによる短絡故障など特定の故障メカニズムに着目した寿命実験データは,枚挙にいとまがない2)。もしその故障が集中的に発生していれば,IFR型で,m>1となる。しかし,IC全体で見ると最初に故障しやすいメカニズムが発生して,次第に故障率を減ずるDFR(Decreasing Failure Rate)型,m<1になることが知られている3)。
特にユーザー側が関心を持っているICの故障率の見積もりに関して,我が国では,米国のMIL-HDBK-217Bのように組織的に解析,公表されたデータがないので,しばしば,217Bのデータが引き合いに出される4)。217Bの詳細な説明は省略するが,ICの故障率λpを表す基本的モデルは,次式で表される。
ここで,
πT:アレニウス型の温度依存性を示す故障率,
πE:温度に依存せず機械的原因に起因する故障率,
C1,C2:ICの複雑度注2)に依存する係数,
π:その他の修正係数,
である。
注2)ディジタルICではゲート数,メモリーではビット数,アナログICでは相当トランジスタ数を意味する。