出典:日経エレクトロニクス,1978年11月27日号,pp.72-79(記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

日経エレクトロニクス創刊200号の「ICの信頼性」特集から,総論として電子部品の信頼性について概説した,1本目の論文を再録する。当時,通産省電子技術総合研究所 電子デバイス部信頼性研究室室長だった塩見弘氏による解説である。(2009/03/19)

要点 電子部品は修理できない。これが信頼性上,装置やシステムと違う点である。装置の故障率は部品の故障率から見積もる。しかし,部品の実使用時の故障率データは手に入り難い。この論文は,部品の中でもICを中心に,故障率の実例,特徴,各種試験とその問題点を解説している。また,以下に続く論文中に使われている信頼性技術特有の基礎用語も説明している。(本誌)

 電子部品は装置やシステムに比べて修復できない点で異なる。ここでは,この特集のテーマであるICを中心に電子部品の信頼性について,その特徴を解説する。

 本論に入る前にまず信頼性の意味するところを簡単に説明しておく注1)

 信頼性(Reliability)とは,「部品やシステムが与えられた条件で,規定の期間中,要求された機能を果たす能力」と定義される。一方,信頼度(同じくReliability)とは「部品やシステムが与えられた条件で,規定の期間中,要求された機能を果たす確率」と定義される。

注1)基本的用語はJIS Z 8115に収録されている。現在,見直しが行われている。

電子部品は修理できない

 ICをはじめ電子部品は,故障するとその時点で文字通り寿命が尽き,修理することができない。これは装置やシステムと大きく異なる点である。このため,電子部品では次のようなことが問題となる。

(1)故障までの動作時間(ttf:time to failure=故障しても修理しない部品のような消耗品が故障するまでの時間)の分布(寿命分布),
(2)MTTF(Mean Time To Failure=ttfの平均値),
(3)故障率のパターン(故障率の定義については,『言葉の説明』参照),
(4)故障率の大きさ,
(5)故障モード(短絡,開放,特性劣化などの区別),
(6)故障メカニズム(故障モードの原因),
などである。

 これに対し,装置やシステムは,多くのICや各種部品などから成る。部品が故障して装置の機能が失われても,部品を修復,更新すれば再び機能を果たすことができる。したがって,装置が故障してから次に故障するまでの動作時間(tbf:time between failures,その平均値がMTBF)は,構成部品のttfから成る。その装置の故障はランダム化して故障率(厳密に言えば,更新率:renewal rate)は,一定値のCFR(Constant Failure Rate)型になる傾向がある。このため装置の信頼度R(t)は,ランダム事象の発生時間を記述するのによく知られている指数分布で与えられる。

 装置の故障率λは,装置の故障に直結する構成部品の故障率をλi(i=1,2,...,n)とした時,次式で求められる。