町田 勝彦
シャープ 代表取締役会長兼CEO

経済状況の悪化とともに,エレクトロニクス業界に停滞感が漂い始めている。この状況を打破するには,将来のビジョンを示し,技術者が一致団結して取り組める環境を整えることが必要だろう。そこで,シャープは「DCエコハウス」というコンセプトを掲げる。液晶ディスプレイに太陽電池とLEDなどを組み合わせることで,CO2排出量の少ない住宅の実現を目指す。(山下 勝己=本誌)

本記事は,2008年10月28~30日に開催された,日経BP社が主催した「FPD International 2008」でシャープの町田氏が行った基調講演の内容を基に加筆し,編集したものである。

太陽電池とLEDがエレクトロニクス産業を支える

 現在,厳しい経済状況の真っただ中にある。経済状況が悪化した理由の一つとして,経済のレバレッジ効果に歯止めがかからず,実体経済から懸け離れた状況に陥っていることが挙げられるだろう。実際にアイルランドでは2008年9月末に,金融負債がGDP(国内総生産)の2倍以上に達するという事態を招いた。

 このように,地に足が着いていない金融経済は改めるべきだと考える。大切なのは,原点に立ち返ることだ。つまり「価値を持つ,目に見えるモノ」に,正しい対価を払うことである。製造業を早急に見直す必要があるだろう。実体経済なくしては,人類全体の価値の総量は増えない。文明レベルも向上しないし,人類の幸福にもつながらない。製造業こそが,それを成し得る唯一の存在なのである。

太陽電池とLEDを新しい柱に

 しかし,今までのモノづくりの延長線上には,現状を打破する解はない。私は,新しいモノづくりを通じて,現在世界で一番関心が高い環境問題に貢献していくことが,日本のエレクトロニクス業界が進むべき道だと考えている。

 この,新しいモノづくり実現のカギを握っているのはチーム・プレーである。現在のエレクトロニクス業界を含む製造業を見渡すと,確かに隣同士の技術を擦り合わせる文化は存在している。しかし,世界規模での競争を勝ち抜くには,チーム・プレーをもっと深めていなければならない。

 例えば,野球では得点源となるクリーンアップを充実させ,これに足の速い選手や守備のスペシャリスト,経験豊富な投手陣を組み合わせることで強力なチームをつくり上げている。エレクトロニクス業界を一つの野球チームとして考えると,主軸打者の液晶ディスプレイとともにクリーンアップを構成する製品/技術を創出しなければならない。私は,その役回りを太陽電池とLEDに求めようと考えている。

『日経エレクトロニクス』2009年3月23日号より一部掲載