出典:日経エレクトロニクス,1978年11月27日号,pp.68-71(記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

日経エレクトロニクスの創刊200号記念特集のテーマは,「ICの信頼性」だった。この記事にあるように,日本メーカーは高い信頼性を製造工程でつくり込む手法に基づいて,安価で高品質のDRAMを世に出し,世界市場を席巻した。ただし,製造工程に重きを置く発想は,その後のファブレス企業とファウンドリーという新たなビジネス・モデルに乗り遅れる遠因となったのかもしれない。(2009/03/27)

創刊200号特集「ICの信頼性」の目次
創刊200号特集「ICの信頼性」の目次
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 このところ電子部品の標準化が進み,特性を見る限りメーカーによる差のない製品が増えている。こうなると,製品選びの条件として価格と信頼性の占める比重が大きくなる。ICでは特にこの傾向が強い。最近では信頼性に対する要求が厳しくなり,取引時にデータ提出を求めるユーザーも多くなっている。

 信頼性はコストとの兼ね合いで、決まる。欧米のメーカーやユーザーは,信頼性の高い製品は高価,と割り切って売買している。特別な信頼性試験をしたり,スクリーニングにかけて高信頼性部品を選別するため,コスト高になる訳だ。逆に,試験をせずその分安くするという極端な例もある。この秋来日した米インテル社のR.ノイス会長によると「米国では,最終的なコストが最低になるように最適化している。1%のAQL(Acceptable Quality Level,合格品質水準)レベルが米国内の常識である。現在,日本のユーザーが好む低いAQLレベルにもっていきつつある」という。この場合,コストは上がる。

 これに対し日本の場合,多くのユーザーは高い信頼性と同時に低価格も要求する。高価なら買わない購入部品に不良が見つかると罰を課すことも少なくない。なかでも民生機器メーカーは経済性に厳しい。機器自体に高信頼性と低価格が求められるからである。例えば,国産カラー・テレビのコール・レート(販売された製品100台に対する年間故障件数の割合)は年間10%である。これに比べ,米製は70%,英製50%,西独製45%(1976年)となっている。また,自動車に乗せる電子機器の場合,日本の自動車メーカーは規定時間内で無故障を要求する。米国ではコストを重視して意外と高い故障率を提示するという。

 このようなユーザーのきつい要求に対し,ともかく今までのところメーカーはついてきた。年々ICの信頼性は向上し,コストは下がっている。これはどのようにしてなされたか。この特集の出発点はここにある。日本の場合,宇宙用などを除く一般製品では試験やスクリーニングにお金をかけるのは得策でなく,製品に信頼性を作りこむことが大切と強調するメーカーが多い。すなわち,信頼性を考慮した設計やプロセス技術を採ることである。例えば,これまで比較的多かったワイヤ・ボンディングの不良は自動ボンダの採用によりほとんど問題にならなくなったという(松下電子工業QAセンター部長の安食恒雄氏)。また,「信頼性は精神運動」という声も聞く。個々の技術よりも作業者の就業態度が大きく影響するという訳だ。

 この特集は,このように重要度を増している信頼性を扱う。特に「ICの信頼性」に的を絞った。メーカーとユーザーともに関心が高く,今後の問題が山積みしているためである。ICの信頼性には種々の取り上げ方があろう。ここでは,どのような故障があるか,今後はどのような故障が起こり得るか,その対策は,という観点からまとめた。ICの故障率は現在かなり低くなっている。しかし,今後LSIの高密度化が進むと,種々の新しい問題が生じてくる。

 もちろん,この特集は一面を紹介しているに過ぎない。例えば,LSIの集積度が非常に大きくなると,検査が大変になる。故障の原因が見つけにくくなる。これにどう対処するか。また, IC以外にも信頼性の問題になっている部品は多い。化合物半導体素子,各種の新型ディスプレイ, コネクタなどの接続技術などである。更に,装置やシステムの高信頼化技術への関心も高い。これらについては機会を改めたい。