出典:日経エレクトロニクス,1975年1月27日号,pp.34-38(記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

100号で取り上げたのはパターン認識である。極めて急速に技術が進んでいることと,影響する範囲が広いことが理由だった。流通する情報量が爆発的に増えている現在,その重要性はますます高まっている。7本の記事から成り,合計100ページを超えた特集の中から,当時・京都大学 工学部 電気工学第二教室教授で,guest editorを務めた長尾真氏による総括をお届けする。(2009/03/19)

創刊100号特集「パターン認識の現状と将来」の目次
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パターン認識には大きく分けて,パターン認識理論,文字読み取り,図形処理,画像処理,物体認識,音声認識などの分野がある。これらの分野における種々のテーマと技術を指摘し,これらの分野の発展段階を明らかにした。そしてこれら種々のパターン認識のプロセスをどのようにシステム構成すべきかについて論じた。

 コンピュータ,情報処理技術の発展に伴って,パターン認識という言葉もかなり広く知られるようになってきた。文字や線図形といったパターンから,写真,実際の風景などのように人間の目に視覚的に訴えるパターン,人間が日常話す音声のパターン,更には文の構造パターン,文学・芸術などの中に感知されるパターン・イメージなど,パターンと呼ばれる範ちゅうは非常に広い。

 視覚パターンに限っても,我々の目に入る日常の風景,知人の顔など,膨大な視覚情報を我々は処理し,記憶している。少なくとも目の前に,ある物が提示された時,それが何であるかを言うことができる。これはどのような作用によるのか,現在の科学技術でこれを解き明かすことはできない。人間における認識作用は高度に総合的で柔軟性に富んでおり,持っている知識を十分に使ってその場に即した判断をしていると考えられる。

パターン認識について講義中の長尾教授
パターン認識について講義中の長尾教授

 これら多種多様なパターンを図1に示すように,文字,図形,画像,物体(3次元映像),音声という五つのカテゴリーに分類し,これらを結合するものとしてパターン認識理論を中心に置いて考えてみよう。その底辺を支えているものは,パターン認識のハードウェア,ソフトウェアであり,システムであると言える。そしてパターン認識という最も人間的なもののなるべく多くの部分を機械で行わせるためには,人間が行っているパターン認識のメカニズムをよく研究し,それを十分参考にしなければならないことは言うまでもない1)~4)

図1 パターン認識の分野
図1 パターン認識の分野
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