席を暖める暇もなく,日本,米国,欧州などを常時飛び回りながらソニーの陣頭指揮を執るStringer氏。もともとジャーナリストだった同氏がソニーに入社して11年,会長兼CEOに就任してから3年以上がたち,2009年4月には社長も兼務することになる。未曽有の不況に見舞われている今,何を考え,そしてソニーをどこへ向かわせようとしているのか…。(聞き手は本誌編集長 田野倉 保雄,大槻 智洋)

(写真:丸本 孝彦)

─ 今回の不況は100年に1度といわれていますが,どう見ていますか。

 私がこれまで経験した中では最悪の状況ですね。どのくらい苦しい状態が続くかも分かりません。エコノミストの意見も,参考にはならないでしょう。銀行で何が起こっていたのか把握できていなかったのですから。強すぎる円が,商品の対外的な価格競争力を削いだという問題もあります。

 家電メーカーは今,コストを削減しなければ,経営が破綻しかねません。イノベーションで苦境を脱せよという人もいますが,不況による収益の悪化はそれを待ってはくれません。しかも,苦境の原因は不況だけではないのです。韓国や台湾,中国の企業の商品は,日本のものに比べてコストが安い。それが商品単価を押し下げ,日本メーカーは利益を得にくくなる。この流れは今後も変わらないでしょう。

 商品の価格が高すぎては,誰も買ってくれません。ヒットしなければイノベーションにも至らない。派遣社員の削減や製造委託の加速など難題ばかりですが,私を含めた経営陣がこれらを解決する必要があります。

 ただ,私は悲観していません。危機はチャンスです。日本のエレクトロニクス業界がダイナミズムを取り戻す絶好の機会が訪れたと信じています。ソニーについて言えば,高コスト構造になっていることや,世の中の変化に合わせて我々がやるべきことを,皆が理解しやすくなりました。

『日経エレクトロニクス』2009年3月23日号より一部掲載