【特集】小さいクルマの安全技術 大きさとコストの制約を打破


Part 1:加速するダウンサイジングの波

大きなクルマから小さいクルマに乗り換えるダウンサイジングが加速している。軽乗用車は新車販売台数の約4割を占めるまでになった。その一方で、小さいクルマは車体寸法や装備が限られ、安全面で不安だというユーザーは多い。トヨタやホンダは、衝突安全性能を高める新しいエアバッグを実用化した。バックモニターや駐車支援システムなど、予防安全や安心のための装備も増えている。

 自動車メーカーが、軽自動車や小型車などに代表される“小さいクルマ”の安全性能の向上に力を入れている。衝突時に乗員を保護する機能や、事故を未然に防ぐ機能を相次いで実用化しているのだ。
 これらに共通しているのは、最小限のコストとスペースに抑えている点。これまでの上級車向けの安全性向上の取り組みとは大きく異なる。

トヨタ自動車の小型車「iQ」
トヨタ自動車の小型車「iQ」
小さくても安心できるクルマ、新しい価値を提供するクルマを目指した。全長は3m未満で、軽自動車よりも約40cm短い。全長2985×全幅1680×全高1500mmで、ホイールベースは2000mm。


Part 2:上級車並みの衝突安全性能

小さいクルマは、衝撃を吸収するストロークが短いため、衝突時の乗員への衝撃が大きくなりがちだ。そうした寸法上の制約の中で乗員への衝撃を緩和するために、内圧を一定にしたまま長時間展開する運転席用エアバッグや、後突用のエアバッグが開発された。狭いスペースで効果的に乗員を保護するサイドエアバッグも登場した。衝撃を受け止める車体骨格は、衝撃を分散して吸収することで乗員の安全を確保する。

 小さいクルマは、衝突時の乗員への衝撃が大きくなりがちだ。大きなクルマと比べて、衝突時の衝撃を吸収するストロークが限られるため、車体骨格の強度を高くしているからだ。
 この課題に対し、ホンダの新型「ライフ」、トヨタ「iQ」、日産の新型「キューブ」は、新しいエアバッグの採用や、短いストロークで衝撃を分散して吸収する構造とすることで、乗員の安全性を高めている。

 

ホンダの新開発エアバッグ「連続容量変化タイプ」
ホンダの新開発エアバッグ「連続容量変化タイプ」
(a)エアバッグが膨らむとともに、縫い目が切れて内圧を一定に保ちながら展開する。(b)従来品。膨らむ量が多いため、姿勢によってはドライバーの顔への衝撃が大きくなることがあった。


Part 3:機能を絞り込んだ予防安全

小さいクルマ向けの安全装備は、これまで上級車に比べて限定されていた。しかし、ダウンサイジングの流れが加速する中で、上級車と同様の装備を求めるニーズが高まっている。ただし、コストとサイズの面で、上級車向けと同じ装備をそのまま流用することはできない。自動車メーカーや部品メーカーは、小型化する、機能を絞る、ソフトウエアの追加で済ませる――などの工夫で小さいクルマに適した予防安全装備の開発を進めている。

 ぶつからない、こすらない、事故を起こさないための予防安全の装備は、これまでは上級車向けが多かった。
 しかし、市場のダウンサイジングが進んできたことから、小さいクルマでも上級車並みの予防安全技術を望む声が増えている。ただし、上級車の装備をそのまま持ってくるわけにはいかない。コストやスペースの点で小さいクルマには制約が大きいからだ。

 

世界最小・最軽量のESCユニット(横滑り防止装置)
世界最小・最軽量のESCユニット(横滑り防止装置)
トヨタ自動車「iQ」で初めて採用された。従来品はACC(Adaptive Cruise Control system)の先行車追従機能まで備えていた。今回は、横滑り防止に機能を絞ることで、小型、低コスト化した。